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調査対象会社の選定

移転価格調査対応の絞り込み

移転価格税務調査を行うには、長期間を要する場合も多く、一方で移転価格調査を行うことができる専門官の数も限りがあることから、無作為に調査を行うのではなく、海外への所得移転の可能性が高い企業や、移転価格の整備がなされていない企業を優先的に調査するようになっています。

 調査先の選定にあたっては、所得移転の可能性を判断するための情報源として、主には、定期的な一般の税務調査の中で得られた情報と、別表17(4)から得られる情報があります。

 前者については、通常、3年~5年に一度程度、定期的に各企業に対して法人税の調査が行われていますが、こうした一般の法人税調査を行う担当官は、移転価格税制についての知識や経験は十分でないケースが多いのですが、広く会社の情報を集める中で、海外子会社への利益移転の可能性や、対価の回収漏れ、移転価格税制への未対応の状況などを調べ、そこから移転価格税制上問題があると判断されれば、その調査又は次回の調査で、移転価格の専門官も含めて税務調査を行うことが多いように思われます。

 後者については、通常、法人税の税務申告書の添付資料として別表17(4)という付表があります。この別表17(4)には、国外関連者との取引に関する情報を記載することが求められますが、ここで開示された情報を元に、移転価格税制への対応がなされているか、所得配分が異常ではないかなどを参考にし、問題があると判断すれば、税務調査に入るケースもあります。

 傾向としては、税務署所管法人に対する調査においては、主に定期的な調査の中で得られた情報から調査先の選定を行うことが多いようです。一方で、国際情報課(移転価格調査の専門課)を持つ国税局では、別表17(4)の情報をデータベース化して管理しており、より効率的に課税対象を事前に判定しているようです。

別表17(4)の記載内容と税務当局の視点

別表17(4)を作成・提出している場合

別表17(4)を作成・提出していれば、まず間違いなく調査の前段階で調査官はこれに目を通しているでしょう。そこで以下では、別表17(4)の記載内容に鑑みて、当局がどのような点を検討しているか、解説していきます。

①国外関連者の名称等

別表17(4)の上半分となる「国外関連者の名称等」では、国外関連者がどのような規模で、どのような活動内容なのかを簡便的に判別できるような内容となっています。以下個々の内容について、記載すべき事項と、税務当局がそこから何を読み取るかについて解説します。

A)事業年度又は連結事業年度
別表を作成する法人の事業年度又は連結事業年度を記載します。 

B)法人名
別表を作成する法人名を記載します。

C)名称
国外関連者の名称を記載します。 

D)本店又は主たる事務所の所在地
国外関連者の本店又は主たる事務所の所在地を記載します。

税務当局の視点

移転価格課税の対象は、所得移転の意図は関係無く、また所得を移転する先が低税率国であっても、税率の高い国であっても関係はありませんが、結果として海外子会社に過剰な所得が帰属していれば課税の対象となります。

ここで、企業にとっては低税率国に所得を移転させた方が連結での納税コストは削減できることから、低税率国に所在する国外関連者に対して所得を移転させるインセンティブは強くなる傾向にあります。そのため、シンガポールや香港など、税率の低い国に所在する海外子会社との取引については、当然、税務当局も目を光らせていると考えられます。特に、他の税率の高い国に所在する海外子会社に比べて、税率の低い国に所在する子会社の利益水準が高い場合には、所得移転の可能性が疑われると考えられます。

E)主たる事業
国外関連者の主要事業を記載します。

税務当局の視点

税務当局は、これまで数百社に対して移転価格調査を行ってきており、様々な業種の様々な機能(製造・販売など)の企業の利益水準の検証を行ってきています。

 実際の各子会社との所得配分の検証には詳細な分析が必要となりますが、移転価格の専門家は過去の調査の蓄積から自動車部品の製造業者、医薬品の販売業者など、おおまかな業種と機能によってどの程度の利益水準が適正であるかの相場観は持っていることから、事業内容に比べて異常な利益水準となっていれば、調査対象として選定される可能性は高くなるものと考えられます。

F)従業員の数
国外関連者の従業員数を記載します。

税務当局の視点

従業員の数から、国外関連者の規模感が分かります。 また、売上規模との比較から、多数の従業員を抱えて労働集約的な機能を果たしているのか、少人数で多くの売上を計上しているのかなどが読み取れます。

特に、シンガポールや香港などに従業員数名の海外子会社があり、そこに多額の売上が計上されている場合には、所得移転の可能性が考えられます。シンガポールや香港は、アジア地域の地域統括会社が多く設立される国でもあることから、アジア地域の販売統括会社として商流が集約されるケースはよく見られます。しかしその結果、人員や果たす機能に比べて過剰な利益が配分されていれば、当然移転価格課税の対象となってきます。

平成25年度の税制改正で、移転価格の検証にベリー比の使用が可能となった(ベリー比の解説については巻末で解説)ことから、従業員数に比して多額の売上が計上されている場合、利益配分が適正か否かは注意が必要と考えられます。

G)資本金の額又は出資金の額
国外関連者の資本金の額又は出資金の額を、国外関連者の所在地国の通貨により記載します(円換算不要)。

税務当局の視点

資本金の額から、国外関連者の保有資産や事業の規模感を推測することができます。 また、売上規模と比べて資本金の額が異常に少ない場合には、売上の付け替えなどの可能性も読み取れるかと考えられます。

H)特殊の関係の区分
特殊の関係の区分では、国外関連者の関係を記載します。ここでいう関係には、大きく分けて持株関係(親子及び兄弟)及び実質的支配関係があります。以下では法人と国外関連者の関係に応じて、解説します。

1.親子関係
二つの法人のいずれか一方の法人が、他方の法人の50%以上の株式等を直接又は間接に保有する関係を指します。

2.兄弟関係
二つの法人が、同一の者(個人を含む)にそれぞれの50%以上の株式等を直接又は間接に保有される場合における二つの法人の関係を指します。

3.実質的支配関係
下記のいずれかに当てはまる場合には、実質的支配関係があるとして、移転価格課税の対象となります。

・会社の代表権又は役員の2分の1による支配
・事業活動の相当部分を支配
・借り入れ、保証等による支配 

4.持株関係及び実質支配関係の連鎖

5.持株関係又は実質支配関係のいずれかの組み合わせによる連鎖

4、5については、特殊な形となりますが、移転価格税制の趣旨は、独立企業間としての価格交渉が行われない(価格コントロールが可能な)関連者の間での価格の歪みにより海外に所得が移転されることを防ぐことであり、親会社と孫会社、ひ孫会社との取引や、孫会社どうしの取引などであっても、そのような関係にある可能性があることから、課税の対象とされています。

I)株式等の保有割合

保有:法人が直接又は間接に保有する国外関連者の株式等の保有割合を記載します。

被保有:法人が国外関連者により直接若しくは間接に保有されている株式等の保有割合又は法人が同一の者により直接若しくは間接に保有されているその法人の株式等の保有割合を記載します。

同一の者による国外関連者の株式等の保有:同一の者により直接若しくは間接に保有されている国外関連者の株式等の保有割合を記載します。

なお、上記の内書には、法人又は同一の者が直接に保有する国外関連者の株式等の保有割合を記載します。

税務当局の視点

移転価格課税の対象となる企業は、主に取引価格のコントロールが可能な100%保有の海外子会社が想定されますが、法令上は直接又は間接に50%以上の保有割合を持つ者との取引が課税対象とされています。従って、グループ外の企業と50:50の持分割合で設立した合弁会社の場合なども、移転価格課税の対象となります。

 しかし、合弁会社の場合などは、合弁相手との関係上、取引価格のコントロールが不可能であり、実質的に独立企業間と同等の状態である場合も考えられます。

 そのような場合には、取引価格の交渉の履歴を確認することで、移転価格課税の対象とするか否かが考慮されることとなります。

ここで、合弁会社の場合で、合弁相手と価格交渉等があった場合においても、税務当局はあくまで「考慮する」のみであり、課税対象とならない訳では無いので注意が必要です。また、交渉の状況を立証するために、メールや議事録等の交渉の履歴を提示できるように整理しておくことが重要です。

J)国外関連者の損益状況(事業年度 / 営業利益又は売上高 / 営業費用 / 営業利益)
法人の当期の終了の日以前の同日に、最も近い日に終了する国外関連者の事業年度の営業収益等を記載します。

国外関連者がその会計帳簿の作成に当たり使用する外国通貨により記載するとともに円換算した金額をかっこ内に記載します(百万円未満四捨五入)。

税務当局の視点

移転価格の検証は、取引される個々の資産の価格自体を直接検証するケースは限定的であり、多くの場合は、海外子会社等の利益水準が高すぎるか否かから、間接的に日本からの販売価格が低すぎないか、又は、日本の仕入れ価格が高すぎないかを検証することとなります。原則としては、個々の取引・商流ごとの損益状況から移転価格の検証を行うこととなりますが、簡便的に所得移転の可能性を検証する意味で、海外子会社の単体の損益状況を確認することで、移転価格課税を行う余地があるのかどうかを判断することができます。

 移転価格の事務運営指針にも、以下のように規定されており、本格的な移転価格調査を行うか否かの判断にあたっても、まずは海外子会社の利益水準を見ることで、取引価格の歪みの可能性、移転価格税制が順守されていない可能性を簡便的に判断します。

 また、事業によっては毎期の業績変動が大きい場合もあることから、必ずしも単年度だけの情報で判断する訳では無く、過去数年間の損益推移やその平均値などを見ることで、所得移転の可能性を判断しています。

K)国外関連者の損益状況(税引前当期利益 / 利益剰余金)
移転価格税制は、取引価格の歪みを検証するものであることから、移転価格の分析にあたっては損益計算書で言うと主に営業利益より上の部分が重要になってきます。

一方で、何らかの特別な取引を行った場合や、災害等で特別損失が生じている場合などの特殊な状況があるのかどうかは、税引前当期利益に反映されていることがあります。また、取引を終えた後の利益処分をどうしているか、すなわち、親会社である日本本社が配当により回収を行っているか否かを判断する材料として、利益剰余金の状況から推察することもできるかと考えられます。

平成21年度の税制改正から、外国子会社配当益金不算入制度が導入され、海外子会社からの配当に対しては95%が益金不算入となることから、企業にとっては販売価格やロイヤルティ等で資金を回収するよりも、配当で回収をした方が税務メリットがあります。そのため、取引に係る対価を取らずに配当で回収している兆候が無いかどうかということも、所得移転の可能性を判断する一つの要素として考えられます。

②国外関連者との取引状況等

別表17(4)の下半分の「国外関連者との取引状況等」では、より個別的な取引の情報を記載するようになっています。移転価格税制では、取引ごとの損益状況を検証することとなるため、理想的には各取引について、親会社又は海外子会社がどの程度の利益を計上しているかを把握したいものと考えられますが、親会社か海外子会社のどちらの損益を検証すべきかについては事案によって異なり、また、取引ごとの損益を管理していない会社も多いことから、申告書での開示においては、取引金額と取引価格の算定方法の記載に留めています。

また、各取引について移転価格算定方法に何を用いているかを記載させることで、移転価格税制への対応の有無の判断もできることから、空欄である場合や、不合理な算定方法が記載されている場合には、移転価格調査の可能性も高くなるものと考えられます。

「受取」:当期において、国外関連者から支払を受ける対価の額の総額を記載します(百万円未満四捨五入)。

「支払」:当期において、国外関連者に支払う対価の額を記載します(百万円未満四捨五入)。

「算定方法」:支払を受ける対価の額又は支払う対価の額に係る独立企業間価格につき、法人が選定した算定の方法を記載します。

なお、独立企業間価格の算定に影響を与える特別な事情が生じた場合には,その具体的な内容を別紙に記載し添付することが求められています。特別な事情とは、例えば、生産拠点の海外移転、取引形態・流通形態の変更、買収・合併等による事業再編などです。

L)棚卸資産の売買の対価
海外子会社に対する製品、半製品、原材料等の輸出や輸入に係る対価を記載します。

税務当局の視点

まず、取引金額の大きさから、移転価格課税を行った場合の規模感が概ね判断できます。例えば、棚卸資産の売買について、年間1億円の取引があれば、5%取引価格のズレがある場合、年間5百万円の海外への所得漏れの可能性があります。それが移転価格課税の時効である6年分となると、3千万円の潜在的な課税所得(追徴税額では加算税と延滞税を含めて1千2百万円程度)となります。このように、取引金額が1億円程度となれば、1千万円超の追徴税額を取れる可能性があることから、移転価格調査を行うか否かの金額的な重要性は判断できるかと思われます。

「受取」及び「支払」については、当期の確定申告書の提出時までに、取引金額の実額を計算することが困難な事情にあるときは、合理的な方法により算定した推計値を記載することも可能です。

M)役務提供の対価
海外子会社に対する本社サービスに係る対価や、出張支援に係る対価などを記載します。

税務当局の視点

取引金額の大小の判断もありますが、ここに記載があるか無いかも重要な要素であると考えられます。近年の移転価格課税では、海外子会社に対する本社サービス(経理の代行や人事の代行等)による対価の回収漏れや、出張支援による対価の回収漏れについての事案が非常に多くなっています。親子間の関係においては、通常、何らかの人的交流があることが多く、本社が海外子会社に対して何らかの役務・サービスを提供している可能性が高いと考えられます。

一方で、こうした役務・サービスについて対価が取られていない場合、移転価格課税もしくは寄附金課税の対象となる可能性が高いと考えられますので、海外子会社から役務提供の対価の記載が無い場合には、調査対象となる可能性が高くなるものと考えられます。

N)有形固定資産の使用料
海外子会社に対する生産設備の賃貸料など、有形資産の使用料(賃貸料)を記載します。

税務当局の視点

移転価格税制は、基本的に全てのグループ間取引を課税対象とすることから、有形・無形資産の売買だけではなく、賃貸料の金額も課税対象となります。

 取引形態自体が販売か賃貸かの取引形態自体には問題はありませんが、その対価が適正で無い場合には移転価格課税の対象となるため注意が必要です。

O)無形固定資産の使用料
海外子会社に対する商標の使用許諾や、技術の供与に係るロイヤルティ金額等を記載します。

税務当局の視点

有名な商標・ブランドを有する企業においては、そのような商標・ブランドの使用許諾に係るロイヤルティを回収する必要がある可能性があります。また、海外の製造子会社の場合、ほとんどの場合、本社から製造技術の供与がなされており、そうした技術、ノウハウの対価としてロイヤルティを回収すべき場合が多いものと考えられます。

 有形資産については、仕入れや販売に対して対価を取るべきことはイメージがつきやすいものの、無形資産の供与に関しては、移転価格税制への意識が高くなければ取り漏れている可能性が十分にあります。近年の大型の課税事案は、こうしたロイヤルティの取り漏れのケースが多く、特に製造業の場合などで、ロイヤルティの取り漏れが無いか注意が必要です。

P)貸付金の利息又は借入金の利息
海外子会社との金銭貸借に係る貸付利息や借入利息の金額を記載します。

税務当局の視点

海外子会社への貸付に係る受取金利が低すぎる場合や、借入に係る支払金利が高すぎる場合には移転価格課税の対象となります。

また、海外子会社の現地での借入の保証を行う場合の保証料なども移転価格課税の対象となります。

 移転価格への意識が低い企業の特徴として、グループ間で対価のやりとりをする必要性を感じていないことも多く、グループ間の役務提供や貸付金利が全く取られていないケースも多いように思われます。親子間ローンがある状況でこの金利の記載が無い場合には、金利について対価の回収がされていない可能性があり、移転価格調査の可能性が高くなるものと考えられます。

Q)事前確認の有無
日本の税務当局から事前確認を取得している場合には「有」に○をつけ、取得していない場合には「無」に○を付けます。

税務当局の視点

日本の税務当局から国外関連取引に関する独立企業間価格の算定方法について事前確認を得ている場合には、その確認を得ている年度に関しては移転価格調査の対象にはなりません。

別表17(4)を作成・提出していない場合

前述の通り、別表17(4)の情報は、税務当局においてデータベース化されて管理されているため、海外への所得移転・移転価格税制上の問題があるとみなされれば、税務調査の対象企業として選定される可能性が高くなります。逆に考えれば、海外子会社の利益水準が高い場合や、移転価格への対応を行っていない場合、調査対象とならないよう別表17(4)を記載しない方がいいのではないかとご質問を受けることもあります。しかし、それは間違いで、記載しない方がリスクは高くなります。多額の海外送金がある場合、その送金情報が銀行から税務当局に報告されることとなりますが、海外子会社への送金があって、別表17(4)の記載が無い場合、何らかの情報を隠したい理由があるのではないかという疑いが生じるため、逆に移転価格調査を誘発する可能性が高くなります。税務当局としても、こうした「あやしい」企業については、集中的に調査対象とする例もあるようなので、適正に移転価格税制への対応を行い、適正に別表17(4)を記載することが、調査・課税リスクを低減する近道であると考えられます。

なお、別表17(4)の記載に不備がある場合については、事務運営指針において調査において指導が行われることとされています。

移転価格対応上のコーポレートガバナンスの重要性

国税庁による「移転価格に関する取組状況確認のためのチェックシート」の活用

移転価格の問題は、グループ間での利益配分、資金の配分にも関係してくることから、経営層にとっても重要な問題でもあり、経理部門だけでは解決できない面があります。そのため、国税庁としては、グローバル企業の経営陣に対しても、移転価格税制への理解と関与を求めており、特定の大企業に対して「移転価格に関する取組状況確認のためのチェックシート」を配り、マネジメントの移転価格への取り組みを促しています。チェックシートは以下の通りであり、自社の移転価格の取り組み状況について確認してみても良いと思います。

出所:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/hojin/sanko/pdf/check.pdf

移転価格ガバナンスが優良な企業へのインセンティブ

税務当局は、我が国全体の申告水準の維持・向上を図る観点から、上記のようなチェックシートを大規模法人に配賦・指導を行うことで、税務に関してマネジメントのコミットメントを求め、コーポレートガバナンスの充実を促しています。

 移転価格の文書化や、マネジメントの税務への関与度合の高さなどから、企業の税務に関するコーポレートガバナンスの状況の評価等を行い、評価の高い法人については調査間隔を延長するケースもあるようです。

 移転価格調査を含め、海外子会社との取引に関する調査は、長期間の対応を求められることから、グローバル企業として、事前に税務に関するガバナンスを高め、調査及び課税を受けない体制を構築していくことが重要であると考えられます。

移転価格調査・課税を行う税務当局の組織

税務当局の組織

日本の税務当局の組織は、国税庁を頂点として、各地方に国税局、さらにローカルに税務署という形で、ピラミッド組織となっています。

国税庁は主に税制自体の検討や税務調査の方針等の方向性を決め、実際の税務調査については、資本金1億円以上の大企業に対しては国税局が、1億円未満の中小企業については税務署が所管しています。なお、資本金が1億円未満であっても、売上規模が大きい実質的な大企業等についても国税局が所管する場合もあります。

国税庁の組織

国税庁の中で、移転価格税制に関連する部署としては、長官官房・国際業務課の相互協議室と、調査査察部の調査課(国際調査管理官)があります。

相互協議室の主な業務は、移転価格課税が行われた後の二重課税を解消するための国家間協議や事前確認申請に関する国家間協議を行うことです。納税者から日本又は海外での移転価格課税等によって二重課税が生じた場合に相互協議の申立てを受けると、申立てを受けた事案について二重課税を解消するため取引相手国と協議を行います。事前確認申請を受けた場合には、申請内容について国税局の国際情報二課で審査を行った後、申請取引に係る相手国と過去及び将来の所得配分に関して相互協議を行います。

また調査課では、国税局が調査対象とする資本金1億円以上の大企業への調査・課税について指導・監督をしています。国税局が移転価格課税を行う前には、国税庁の調査課から確認を取るようになっています。これは、移転価格課税を行う場合、二重課税状態になることから、取引相手国と相互協議を行うことが想定されます。また、課税判断がグレーになるケースも少なくなく、金額的にも大きいことから、課税の適法性をめぐって裁判になるケースもあります。そのため、課税後の国家間協議や裁判を見据えて慎重な課税判断を行っています。

なお、中央官庁が移転価格課税を統括するのは日本だけではなく、例えば中国などの場合も、国家税務総局という日本の国税庁にあたる組織が、地方税務当局が行う調査・課税を統括しています。

国税局の組織

長い間、各地方に置かれる東京国税局や大阪国税局の中には国際情報課という部署があり、主に移転価格調査を担当してきました。これまで移転価格の専門部署を設けているのは東京局と大阪局だけでしたが、2013年7月に名古屋国税局は、もともとあった調査部国際調査課から、移転価格税制の専門チームを国際情報課として分離独立しました。海外進出企業の数では、東京、大阪に次いで名古屋(中部)が多く、近年では自動車部品製造業者等を中心に海外への生産移管等が増えていることから、名古屋局に移転価格専門部署ができるのも当然の対応と考えられます。

しかし、2020年7月開始年度に国税局の組織再編が行われた結果、東京国税局では移転価格分野だけを切り出す形ではなく、これまで移転価格の法人管理や調査の中心組織だった「国際情報課」に代えて、移転価格も含めたすべての海外取引及び外国法人を管理する「国際調査管理課」と、移転価格も含めたすべての海外取引、外国法人に係るものを含む国内取引に対する調査の実施を所管する「国際調査課」が置かれることになりました。

この体制変更によって国税局レベルでは国際取引について横断的に調査が行われることになり、言い換えれば、国外関連取引の金額が比較的少額であっても、移転価格に関する調査が行われる可能性が高まったと観ることができます。

資本金1億円未満の企業は、国税局のように多くの専門家を要する調査の対象になりづらいという点では、資本金1億円以上の企業に比べると相対的にリスクが低いということになります。しかし、国税局の組織再編は国の方針の現れと考えられ、多国籍企業に関する国際課税へのモチベーションは全体として高まっていると考えるのが妥当でしょう。

【東京国税局の機構】

【GMTオリジナル】移転価格課税リスクのチェックリスト

自分の会社の移転価格課税リスクを考えるにあたって、10項目のチェックリストを作成しました。以下のチェックリストで、何項目が該当するでしょうか。

各項目について、✔がつけばそれぞれ課税リスクはあると考えられますが、特に✔が4個以上あれば、移転価格課税リスクは高いと考えられます。それぞれの項目について、なぜ課税リスクと関係してくるのか、以下で解説します。

①資本金が1億円以上である

まず、資本金の額が1億円以上か、1億円未満かで、税務調査を行う所轄官庁が、国税局か税務署かが変わってきます。

移転価格税務調査の中心的な存在はこれまで国税局であったことから、国税局管轄の企業に対しては、移転価格税務調査が入る可能性は高いものと考えられます。

ところで、2020年7月開始年度に国税局の組織再編が行われました。その結果、東京国税局では移転価格分野だけを切り出す形ではなく、これまで移転価格の法人管理や調査の中心組織だった「国際情報課」に代えて、移転価格も含めたすべての海外取引及び外国法人を管理する「国際調査管理課」と、移転価格も含めたすべての海外取引、外国法人に係るものを含む国内取引に対する調査の実施を所管する「国際調査課」が置かれることになりました。

この体制変更によって国税局レベルでは国際取引について横断的にメスを入れやすくなりました。言い換えれば、国外関連取引の金額が比較的少額であっても、移転価格に関する調査が行われる可能性が高まったと観ることができます。その意味で、資本金1億円以上の企業はこれまで以上にしっかりとした対応が求められると言えるでしょう。

一方、資本金1億円未満の企業は、国税局のように多くの専門家を要する調査の対象になりづらいという点では、資本金1億円以上の企業に比べると相対的にリスクが低いということになります。とはいえ、国税局の組織再編は国の方針の現れと考えられ、多国籍企業に関する国際課税へのモチベーションは全体として高まっていると考えるのが妥当でしょう。

実際、近年は国税局から主要な税務署に移転価格調査を行うことができる人材を異動させているうえ、簡易な事案については税務署の国際税務専門官でも課税処理を行う体制が整ってきていることから、我々専門家も税務署所管法人での調査対応を行うケースも増えてきました。さらに2022年に入ってGMTとしても初めて税務署所管法人の移転価格調査に国税局所属メンバーが参加するケースも目の当たりにするようになりました。

このような調査実務動向を踏まえると、税務署所管法人でも、過去との比較にいては移転価格に関する調査受ける可能性は高まっていると言えます。

②海外子会社の売上高が1億円を超えている

1億円というのはあくまで参考値です。しかし、課税リスクの大きさを基準に考えると、例えば、海外子会社の売上高が1億円だとすると、親会社との取引に係る利益配分が適正な水準から仮に5%ズレていれば、課税所得金額は5百万円(=1億円×5%)となります。これが6年間あれば、潜在的な課税リスク金額は、3千万円(=5百万円×6年間)となります。追徴税額は、過少申告加算税等の付帯税を含めて約40%とすると、キャッシュアウトは1千2百万円前後になる可能性があるものと考えられます。実際、過去の課税実績からみると、課税所得ベースで1件あたりの平均で1億円を切っていた年度もあったこと、また近年の調査実務の動向、加えて上記の規模感であれば実際のところ救済措置のリスク・コストを避けて争いが起こりづらいという点からしても、それなりに妥当なベンチマークになるのではと考えています。

税務当局目線で見ても、移転価格課税は取引額に関わらず行うことができ、かつ税額ベースでも1千万円を超える追徴ができる可能性があれば、税務当局としても無視できないレベルになってくるものと考えられます。会社としても、1千万円超の潜在的な追徴税額のリスクがあれば、多少のコストを伴ったとしても対応を取らざるを得ないものではないでしょうか。

海外子会社の売上高の多くは日本本社等との取引が占める割合が多いことや、製造子会社の場合、売上高全体に技術ロイヤルティがかかる可能性が高いことを考えると、概ね海外子会社の単体売上高に所得配分のズレとして数パーセント(以下では5%を仮定)をかけてみれば、1年あたりの移転価格課税リスクの規模感が分かるかと思います。それに6年間をかけ、さらに40%をかければ、移転価格調査が入った場合の追徴税額のインパクトがどの程度大きいのかが分かるかと思われます。

非常にざっくりした数字ですが、自社の課税リスクが対応を取るべきレベルなのか否かは判断がつくかと思われます。数千万円~数億円の追徴課税リスクがあるのであれば、企業としては本腰を入れて対応を取るべきものであると考えられます。

③親会社よりも子会社の利益率の方が高い

移転価格税制は、所得移転の意図とは関係なく執行されます。明確な答えが無い税制でもあるため、所得移転の疑い(所得移転の蓋然性)があるかどうかという点が本格的な調査に入るかどうかのトリガーになる場合もあります。

例えば、移転価格税制ではグループ間取引を独立企業間としての状態で行うことが求められますが、「独立企業間においては、より多くの活動(機能)を果たし、より多くのリスクを負担した者がより多くの利益を取るべき」という考え方があります。通常、親会社側で研究開発・事業開発投資が行われ、経営企画や販売戦略の策定など、さまざまな高付加価値機能を果たします。一方で、海外子会社の多くは親会社で開発された技術を元に単純に受託製造業者のような製造機能を果たしている場合や、単純な仕入れ販売などのケースが多く、「海外子会社の方が親会社よりも利益率が高いというのは所得移転の疑いがあるのではないか?」というように、調査のきっかけとなり得ます。

通常、税務申告書の添付資料として別表17(4)という国外関連者との取引に関する損益情報を税務当局に開示しているうえ、公開の財務データなどから親会社単体損益と連結損益での利益水準を比較できるため、連結損益の利益率に比べて単体損益の利益率が低ければ、海外子会社側の利益水準が高いと判断される可能性もあります。特に海外子会社がシンガポールやアジア諸国の税率の低い国にあれば、会社としても取引相手国に利益配分することで税務コストを削減できるメリットが生じますので、所得移転による租税回避の疑いの目で見られる可能性がでてきます。

もちろん、実際の移転価格の算定にあたっては、詳細に分析した結果、海外子会社の利益率の方が高くても適正であるという結論も十分にあり得ます。ただ、調査に入るかどうかのきっかけとしては、両者の配分がどうなっているか、特に海外子会社に多くの利益が配分されていないかどうかという点は、重要な要素になるものと考えられます。

④海外子会社が営業赤字を計上している

海外子会社が、継続的に営業赤字を計上している場合、海外現地側で税務調査が入る可能性が高くなります。通常、親会社が意思決定権を持ち、グループでの経営・投資の判断やリスク配分を決定しますが、一方で子会社側は親会社の指示に従って活動を行うこととなります。独立企業間においては、依頼を受けてサービスを提供する受託製造業者や単純な仕入販売を行う商社等は、実質的にリスク負担はせず、一定の手数料やマージンをサービスの報酬として受けることが想定されます。移転価格の実務においては、受託サービスを行う海外子会社側が安定した利益を計上すべきという考え方があり、特に中国などでは、中国で単純な活動を行う子会社が赤字を計上する場合には、取引規模に関わらず移転価格文書化資料の提出義務を課すなど、特に外資系子会社の赤字計上について強硬な姿勢を取っています。他のアジア諸国でも、単純な活動を行う製造子会社や販売会社が多いことから、海外子会社が3年以上赤字を計上しているような場合は、現地で移転価格調査・課税を受ける可能性が高くなります。

もちろん、赤字の理由が、価格設定によるものではなく、やむを得ない理由があれば、海外子会社の赤字計上が適切な場合もありますが、海外税務当局は、説明をしても聞き入れてくれないケースもあります。

いずれにしても、極端な所得配分は、どちらかの国で課税リスクを高めることとなると思われますので、注意が必要です。

⑤海外子会社の利益水準が毎期大きく変動する

移転価格のルールがしっかりと整備されている企業は、子会社のあるべき利益水準を把握したうえで、適正な所得配分となるよう取引価格の修正を行います。そのため、海外子会社の利益水準が安定的に保たれる傾向にありますが、反対に海外子会社の利益水準が、大きく変動する場合、移転価格税制に基づいた取引価格の設定ルールが整備されていない蓋然性が高く、また、価格調整による所得操作があるのではないかという疑いが生じ得ます。

移転価格の整備がなされていない企業に調査に入れば、何らかの課税ができる可能性が高く、調査対象となる可能性も高くなります。

⑥製造子会社からロイヤルティを取っていない

過去においては、日本から部品や半製品を海外子会社に輸送し、海外子会社で組み立て等を行うケースが多かったものと思われますが、特に近年では現地調達で部品・材料を仕入れ、現地市場に販売するような、いわゆる外-外取引が増えているように思われます。そのような場合、グループ間での取引は、部品や材料といった有形資産の取引は減りますが、製造技術の供与や、様々なノウハウの提供など、無形資産取引は残ることとなります。

親子間での取引が有形資産中心の状況においては、技術等の対価を部品や製品価格に反映させることで回収することも可能でしたが、外-外取引のように有形資産を介さない場合、技術等の無形資産の提供に対する対価は、ロイヤルティで回収するしかありません。

また、移転価格税制上の無形資産は広く定義されています。一般的に無形資産というと、特許技術や商標など、法的な権利をイメージされることも多いとおもいますが、移転価格税制における無形資産はノウハウなども含めて広く考えられているため、一般的な企業の無形資産に対するイメージが異なっていることがあります。加えて、グループ間でロイヤルティを回収しなければならないという意識がないこともあり、無形資産の供与に係るロイヤルティが未回収となっている企業が多いのも実情です。

また、技術供与などがある場合、基本的にその技術供与を受けた製造子会社の売上の多くの部分が、本社から提供された技術に基づくものと考えられるケースもあり、そのようなケースでは移転価格課税金額の計算において、海外子会社の全売上高にロイヤルティかける形になれば、大きな金額となり得ます。新聞報道されるような大型の課税事案は、無形資産に関係するものが非常に多くなっています。もし、海外子会社があれば、何らかの技術供与があるケースが多いため、ロイヤルティを取っていなければ、回収漏れとなっていないかが懸念されます。

⑦子会社への出張支援に対して対価を取っていない

近年、税務署による移転価格調査が増える中で、比較的簡易な移転価格課税が増えています。その代表的なものとして、海外子会社への出張支援について対価を取っていない場合における課税があります。

特に中小・中堅企業においては、グループ間で適切に対価のやり取りをしなければならないという意識が低い傾向にあり、手間もかかることからグループ内での取引について対価設定を全くしていないケースが多いようです。特に日本本社から海外子会社に出張支援する場合、海外子会社の資金が潤沢でないことも多いことから、費用は本社負担にしているケースも多いものと思われます。

グループ間取引を独立企業の状態にするという移転価格税制において、価格が高いか低いかという点についてはグレーな面があるため、税務調査においても議論の余地がありますが、価格の妥当性を検証する以前に、そもそも取るべき対価を取っていないというのは、税務調査で指摘を受けても反論の余地がありません。

特に資金の無い海外子会社の「支援」という要素が強くなると、寄附金課税として処理される可能性も高くなります。その場合、移転価格の専門官でなくとも課税処理できることから、近年では国際課税の中で、この出張費負担での課税が最も多くなっています。

通常、第三者間においては、何らかのサービスを受ける場合、当然対価を支払います。出張にあたっては、旅費・交通費、滞在費等の直接費の他に、出張者の人件費(社会保険料や退職年金も含む)と一般管理費がかかっています。これに対して対価を取らない場合、日本本社としては、海外子会社に対して赤字でサービス提供を行っていることとなり、日本での申告所得はその分減少することから、移転価格課税又は寄附金課税の対象となります。

1回あたりの出張費は大きな金額とはならなくても、それが6年分積み重なると、数千万円に上るケースも少なくないため、注意が必要です。

⑧海外子会社への貸付について金利を取っていない

⑦と同様に、近年の税務署による簡易的な移転価格課税の代表例として、海外子会社への貸付について金利を取っていない場合での課税があります。

 国境をまたいだグループ間ローン取引において、金利の回収漏れがあれば、その分日本の申告所得は取り漏れるため、移転価格課税又は海外子会社への支援として寄附金課税の対象となります。

 移転価格税制上、グループ間の金利については、日本本社が海外子会社に貸し付けを行う場合には以下の優先順位で金利を設定することが求められています。

 一般的に貸付にあたって貸し倒れリスクも生じることから独立企業間であれば、調達金利に一定の利益を乗せた形で金利を設定することとなります。そのため、本社からの貸付金利も、比較可能な第三者間取引における金利情報があれば、それを適用すべきです。しかし、親会社が資金を持っているのに海外子会社があえて第三者から借入をすることは多くないことから、そのような情報が無い場合もあります。その場合、ベンチマーク分析を行ったり、最低限、貸手が貸付にあたって損失を被らないようにするなど、代替的な方法を模索することになります。

 なお、グループ間ローン金利の他に、海外子会社が親会社の保証で現地借入する場合の保証料なども、対価回収がなければ課税対象となります。

いずれにしても、こうした対価が取られていないことについては、対価回収に対する会社としての意識が薄いものと調査官も考えると思われますので、まずはグループ間取引において、適正な対価設定ルールが必要であるということをしっかりと認識し、対応していくことが重要だと考えられます。

⑨前回の税務調査で海外子会社の情報をいろいろ聞かれた

移転価格の税務調査が近年急増しているとはいえ、本格的な移転価格調査を行う先をある程度事前に選定したうえで調査を行います。

税務調査においては、一般的な法人税を調査する調査官の他、国際税務専門官もいますが、移転価格調査を専門とした調査官もいます。移転価格を専門とした調査官には人数の限りもあるため、定期的な法人税調査の中で、海外子会社への所得移転の疑いのある会社や、移転価格税制に即した価格設定ルールが無いとみられる会社の情報を集め、問題がありそうな先について優先的に調査を行うこととなります。

法人税の申告書には別表17(4)という国外関連者間取引に関する情報を記載する付表があるため、そうした情報からも調査の選定先は選ばれますが、一般調査で得られる情報はより多いため、一般調査の中で問題点の指摘を受けている状態であれば、次回の調査までに対応を取らなければ課税される可能性は高いものと考えられます。

⑩ローカルファイルを準備していない

平成22年度の税制改正により、税務調査の際に自社の移転価格設定が適正であることを立証する文書の作成が求められるようになり、 平成 28 年度税制改正ではOECD・G20などによる所謂BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトにおける諸国の合意を受けた一段の制度強化を経て所謂ローカルファイルという文書の作成が求められるに至りました。税務調査の際には、この移転価格に関するローカルファイルを提出する必要がありますが、一般の税務調査の中で、こうした準備資料の有無を問われ、それが無い場合には、移転価格ルールが未整備であると判断される可能性があります。

ローカルファイルは、資料自体を準備することも重要ですが、それ以前に、移転価格税制に即した取引価格ルールが整備されていることが重要です。取引価格ルールが整備され、ローカルファイルの準備があれば、移転価格課税リスクは大幅に低減されるものと考えられますので、調査・課税を受ける前に準備することが必要です。

粗利でみるか営業利益でみるか

概要

海外子会社の利益水準を元に移転価格の妥当性を検証する場合、「利益水準」といっても、比較分析の基準となる利益が「売上総利益」なのか、「営業利益」なのか、また、営業利益を検証するにしても、「売上高営業利益率」なのか、「総費用営業利益率」なのかなど、分母を何に置くかという論点もあります。以下では、この点をどのように考えるべきか、順を追ってみていきます。

基準となる利益は粗利か営業利益か

粗利か営業利益かについては、比較対象となる情報との類似性の程度によることとなります。例えば、販売会社の比較を行う場合、A社は一般的な卸売業者とし、B社は広告宣伝費用を多くつかうものの、その分高く販売できているものとします。この場合、B社は高く販売できていることで、A社よりも売上高総利益率は高くなりますが、その分広告宣伝費が多くかかっているため、営業利益段階では相殺されて誤差の影響が少なくなります。

移転価格税制は、基本的に独立第三者の情報との比較分析を基礎としていますが、実務においては常に最適な比較情報を入手できるとは限りません。海外展開企業の多くが、オンリーワン製品を販売していると考えられ、そのような製品を取り扱う独立企業自体が存在しないケースは多々あります。また、類似の製品を取り扱う独立企業の財務データが入手できたとしても、活動内容の詳細までは分からないケースも多く、総利益率ベースの比較では課税の執行に不安性さが残ります。そのため、実務においては、営業利益ベースでの検証が多くなっています。

利益水準の分母は何を使うべきか

利益水準の検証にあたって、移転価格税制の実務においては、販売会社の検証の場合には売上高を、製造会社の場合には原価(製造原価又は総原価)を分母に使うことが一般的になっています。これは利益水準が適正か否かを検証するにあたって、利益の獲得に最も関係性の高いものを分母に持ってくるべきと考えられるからです。販売会社の場合、売上高に比例して一定のマージンを取るビジネスであることから、利益は売上に比例するものと考えられるため、売上高を分母とします。一方で、製造会社の場合、かかった製造コストに利益を乗せて販売価格とするため、製造原価や総原価を分母とします。また、大規模な設備を必要とするビジネスにおいては、設備投資の額と利益が比例関係にあるような場合もあるため、そのようなケースでは、営業資産や総資産を分母とすることも考えられます。

営業利益を基準とした比較分析を行う場合、売上高を分母とするか総費用を分母とするかでは、計算にあまり影響が無いため、どちらとするかは大きな問題ではありませんが、総費用を分母とするか、総資産を分母とするかでは、計算が大きく変わってきます。また、平成25年度の税制改正では、新たにベリー比(=売上総利益/営業費用)という比率を用いて検証を行うことが公式に認められることとなり、検証の選択肢が増えました。どの指標を用いて検証するかについては、各取引における各社の活動内容や比較対象として選定された会社との類似性などによって変わってくるため留意が必要です。

取引価格を見るか利益水準を見るか

移転価格税制は、グループ間取引における価格が、独立企業間価格で無い場合に課税対象となります。この製品価格の検証にあたっては、大きく分けて直接価格を検証する方法と、間接的に価格を検証する方法とがあります(各方法については「「5分でわかる」移転価格税制」参照)。

直接価格を検証する方法は、文字通り、グループ間取引の価格と、同じ製品の第三者間取引の価格とを比べて、その妥当性を検証する独立価格比準法です。

上図のように、日本本社とB国子会社がA製品の取引を行っている場合、同じA製品を同じB国の第三者に販売していれば、両社の価格が一致しているか否かによりグループ間取引価格が適正かどうかを検証できます。または、日本の第三者が同じA製品をB国第三者に販売している取引の価格情報があれば、それと比較することもできます。いずれにしても、こうした同じ製品の第三者間価格情報があれば、価格を直接比較することで、検証することができますが、取引される製品が、ほぼ全く同じ内容、条件でなければなりません。例えば電気製品や部品でも、バージョンや機能のちょっとした違いで価格は大きく変わりますし、販売市場が異なれば、最終売価も変わってくるため、当然卸値も変わってきます。また、少数の製品を試作品として第三者に販売しているようなケースでも、取引量や段階が異なれば当然価格も変わるため、比較できるかどうかは検討が必要です。このように製品の内容や販売市場が異なる場合、そうした差異の価格への影響を適正に調整計算することは困難であるうえ、そもそもそうした第三者間での取引価格が存在しないか、第三者間での取引価格情報を入手することができないことがほとんどです。そのため、移転価格の実務においては、このように製品価格を直接比較する算定方法(独立価格比準法)が用いられるケースが限定的です。

このように製品価格を直接比較する算定方法が使用できない場合、間接的に取引価格を検証するには、その製品取引から得られる利益水準をもとに、逆算して価格を検証することとなります。

例えば、日本本社から海外販売子会社に製品を販売し、それを現地の第三者に販売する場合、日本から海外子会社への販売価格(移転価格)を検証するには、その製品を仕入販売した海外子会社の利益水準が適正であるかどうかを、類似の製品を取り扱う独立企業の利益水準と比較する方法が取られます。

通常、独立企業間での製品価格の情報を入手することは困難ですが、独立企業の財務データは開示されているものがあります。ここで使用する財務データは、現地の独立企業の情報となるため、税務当局や専門家は、世界中の企業の財務データが搭載されたデータベースを用いて、そこから企業情報を入手して検証を行います。

 移転価格税制においては、製品の価格どうしを比較する場合、かなり高い類似性が求められますが、利益率を元にした検証では、取扱製品自体の類似性はある程度許容されます。これは例えば、文房具の販売業者がボールペンと消しゴムを販売している場合、ボールペンの価格と消しゴムの価格を比較することはできませんが、両者の販売先や販売に係る手間は同じであることから、ボールペンの仕入れ販売から得られる利益と消しゴムの仕入れ販売から得られる利益は大きくは変わらないと考えられています。通常販売業者は、販売活動という機能に対して一定のマージンを取ることが想定されます。商社なども、販売価格の数パーセントを販売手数料として受け取るケースもあるでしょう。しかし、在庫リスクを取るかどうかや、店舗販売をするのかWeb販売をするのかなど、販売方法によってかかるコストや販売手数料も変わってきます。そのため、利益水準を元にした検証では、製品の類似性よりも、果たす活動内容(機能)や負担するリスクの違いが重要視されます。また、販売市場によって得られるマージンも変わってきます。例えば、販売する国や地域によって競争状況が異なりますし、人件費やインフラなどにかかるコストも変わってきます。

 このように、グループ間で取り扱う製品の第三者間価格情報が無くても、類似の独立企業の利益水準との比較分析を行うことで、その仕入れ価格が高いのか低いのかを検証することができます。例えば、海外子会社の利益率が、類似の独立企業の利益率よりも高ければ、仕入れ価格が低すぎる、すなわち日本からの売値が低すぎるため、日本側で売上の計上漏れと判断されることとなります。

 これは製造子会社の場合も同様で、海外子会社が現地で仕入れた原材料から製品を製造して親会社に販売する場合や、親会社から仕入れた材料を元に製造して第三者に販売する場合など、いずれにしても製造子会社がその取引で得られる利益水準が、独立企業と比べて高ければ、日本本社の製品輸入価格が高すぎる、又は、子会社への材料販売価格が低すぎるということになります。

従って、グループ間取引において、取引相手となる国のグループ会社の利益水準が高ければ、所得移転の可能性があり、移転価格課税の対象になるというしくみになっています。

移転価格による所得移転の仕組み

通常、独立の企業間において取引価格は交渉の結果決まりますが、グループ間での取引価格の設定は、親会社と子会社との間で自由に決めることができます。そのため、取引価格の操作を利用した海外への利益の移転や、知らない間に利益配分の歪みが生じ得ます。

 例えば、日本本社が50円で仕入れた製品を海外子会社に70円で販売し、海外子会社がそれを150円で販売すると、日本本社の利益は70-50=20円、海外子会社の利益は、150-70円=80円となります。

一方で、海外子会社への販売価格が110であったとすると、日本本社の利益は110-50=60円、海外子会社の利益は150-110=40円となります。

上図の取引で、例えば会社側が取引Aの価格設定で取引を行っていたところ、数年後の税務調査において移転価格税制に即して取引価格を算定した結果、取引Bの価格設定(移転価格は70でなく110)が適正であると判断したとします。そうすると、会社はもともと20の利益を元に日本で法人税を納めていた訳ですが、適正な利益60との差額の40については、日本側で申告所得の漏れとなります。このように、移転価格税制では、取引価格の歪みを通じて日本側で不足となっている所得について追徴課税を行うこととなります。

 ここで、海外子会社側を見てみますと、過去の取引Aでの移転価格設定により、80の利益で納税をしていた訳ですが、日本当局による算定結果に従えば、取引Bの通り、40の利益で納税すべきであったということになります。すなわち、海外子会社側では40の利益に係る税金を納めすぎていたこととなります。しかし、課税を受けた側の国の取引相手側の国で、納めすぎた税金について還付を受けることは困難です。(還付を受ける方法については、後に詳述)このため、追徴課税された40については、日本本社側と海外子会社側で一つの所得に二重で納税する形となり、いわゆる二重課税状態となります。

 同様に、日本の親会社が海外子会社の経理業務を代行しているにもかかわらず、対価の回収がなされていない場合があります。このような役務提供においても、親会社側では、その役務提供にあたって人件費や家賃などの費用がかかっていることから、対価を回収しなければ損失を被ることとなってしまいます。通常、経理の代行業者に対して業務委託料を支払うように、グループ間での役務提供取引についても適正な対価が支払われなければ、役務を提供した側で収益の計上漏れとなります。このようにグループ内役務提供について対価を取っていない状況で税務調査が入った場合、移転価格税制に即して役務提供対価を計算し、当該金額分の法人税を追徴課税することとなります。

また、ロイヤルティ取引についても同じことが言えます。海外に製造子会社を設立する場合などでは、通常、本社の有する製造技術を子会社に供与する場合がほとんどです。親会社側で有している特許の使用許諾をすることもあれば、特許化されていない自社独自のノウハウを出張や出向を通じて伝授することもあるでしょう。そのような場合に、当該技術供与の対価としてロイヤルティが全く取られていない場合や、取っていたとしても料率が低すぎる場合には、その差額分が日本側の申告漏れとなりますので、追徴課税の対象となります。

特に算定根拠も無く売上高の数%程度をロイヤルティとして回収しているケースも多いですが、企業の考えるロイヤルティ料率と移転価格税制における算定方法に基づいて計算した結果は大きく異なるケースもあり、近年の移転価格課税において、ロイヤルティに関する課税金額は非常に大きくなっていますので注意が必要です。

 また、金融取引についても同様です。海外子会社に資金の貸付を行っている場合に、金利を受け取っていない又は金利が低すぎれば、日本側で収益の計上漏れとなります。近年、OECDガイドラインや、それを受けた国内の事務運営指針の改定などもありましたので、金融取引についても今後はますます注意が必要です。

配当と移転価格税制上の所得配分

移転価格税制がグループ内の所得配分の問題を扱う税制だと認識されている税務担当者様から「移転価格については、我が社は海外子会社から配当で十分な利益の回収をおこなっています」という声をお聞きすることもあります。しかし、配当と移転価格は全く別物です。

移転価格税制は、最終的な目的としては国際間の所得配分を適正化することではありますが、あくまで海外子会社との各取引における価格を税制に即して設定することが求められます。すなわち、原則として取引ごとに適正な価格設定を行わなくてはなりません。

一方、配当は利益処分であり、事業上の取引における対価の受け取りとは全く別のものですので、配当で利益の回収を行っていたとしても取引価格の設定に問題があれば当然課税対象となり、税務調査においては何の抗弁にもなりません。

特に近年では配当の益金不参入制度が導入され、海外子会社から配当を回収しても日本で納税はされないため、税務当局としては事業取引の中で対価回収をせずに配当金で回収する行為に対して特に目を光らせているので注意が必要です。

見えにくい移転価格課税リスク

移転価格税制による課税は、海外に所得を移転して税務コストを下げようという意図(租税回避の意図)があったとしても無かったとしても、結果として所得配分が不適切なものであれば課税を受けてしまいます。例えば、仮に海外子会社が日本より税率の高い国にあった場合、グローバルで税務コストを削減したければ海外子会社に所得を移転するインセンティブはありませんが、結果として海外子会社に所得が多く配分されていれば課税の対象となります。ほとんどの税務担当者様は、租税回避の意図などありませんが、だからこそ課税を受けるなどとは想像もしていないケースが多いと思われます。

また、移転価格税制の恐いところは、企業の税務担当者だけでなく顧問税理士も移転価格課税のリスクを認識していないケースが非常に多いということです。なぜそのような状況が起こってしまうかというと、通常、税務申告業務を請け負う顧問税理士は会社から伝えられた会計情報が適正あることを前提として税務申告書を作成しますが、「移転価格」が適正か否かという問題はこの会社から報告される会計情報(日本法人の損益)そのものが適正か否かというものです。顧問税理士の立場からすると、会社の会計情報に問題がある場合は自分の責任では無いと考えているため、税務申告業務の範囲内においては海外法人との所得配分が適性であるか否かというところまで考えが及ばないケースがほとんどだと思われます。一方で、企業の税務担当者は、顧問税理士が見ているのだから、問題があれば指摘をしてくれることを期待するのではないでしょうか。実際には、顧問税理士が移転価格税制にまで精通しているケースはまれで、会社の会計情報が適正であることを前提としていればなおさら気づく機会が訪れにないことになります。そうすると、移転価格の問題は、企業の税務担当者と顧問税理士の誰も課税リスクに気づかないという状況が生まれやすいものと考えられます。

これからは、申告業務を担当する顧問税理士も企業の税務担当者も、まずは移転価格税制の概要を理解し、自社にも課税リスクがあるのだということを認識するところから始めることが重要であると考えられます。

移転価格課税とレピュテーションリスク

上場企業においては、多額の課税を受けた場合、株主に対して説明責任を果たすため、自らプレスリリース等で移転価格課税を受けたことを公表することとなります。

移転価格調査は1年以上かかるケースも多々あり、一般的に課税判断まで長期を要することから、調査の過程で課税される可能性が高いと判断される状況になった時からリリースの準備を始め、更正通知書を受領した後すぐに公表するケースが多いようです。

多くの会社が、自らのグループ間価格設定に問題があるとは思っておらず、リリースされる内容は「税務当局との見解の相違」により更正処分を受け、処分に対しては「遺憾である」とされているケースが多いように思われます。

<ニュースリリースの例>

移転価格課税において、税務当局との「見解の相違」といっても、その程度はさまざまであり、移転価格税制を順守しようとしても生じてしまうような事実関係の解釈の相違から生まれる避け難い「見解の相違」から、単純に移転価格税制に即した価格ルールが無く自社独自の考えによりグループ間取引を行っているケースでも「見解の相違」と言われます。課税される多くのケースが後者であり、見解の相違というよりは、移転価格税制への対応がなされていないことによる課税が大半ではないかと思われます。

いずれにしても、移転価格課税を受けたことが新聞・ニュースで報道されると、「申告漏れ」として表現されるのが一般的です。移転価格課税は、グループ間の価格設定ルールが整備されていないことで知らない間に課税リスクを負っているケースが多く、海外に所得を移転させる意図は無い場合がほとんどですが、確かに日本で申告・納税すべき所得が海外に移転されていたことで、日本の申告所得が漏れていたという点では「申告漏れ」で間違いありません。一方で、新聞・ニュースを読む一般の方からすると、あたかも所得隠し又は脱税をしたような印象を与えかねず、企業の社会的信頼やブランド価値の棄損につながる可能性もあります。特に一般消費者を顧客とする企業にとっては、多額の追徴税額よりも、そちらの方が大きなダメージとなりかねないため、レピュテーションリスクとして認識しておく必要があるでしょう。

海外寄附金課税制度と移転価格税制①(寄附金規定)

国外関連者への寄附金に関する規定

国外関連者への寄附金の損金不算入については、租税特別措置法において以下のように定められています(2022/8/15時点)。

租税特別措置法六十六の四3項

法人が各事業年度において支出した寄附金の額(法人税法第三十七条第七項に規定する寄附金の額をいう。以下この項及び次項において同じ。)のうち当該法人に係る国外関連者に対するもの(恒久的施設を有する外国法人である国外関連者に対する寄附金の額で当該国外関連者の各事業年度の同法第百四十一条第一号イに掲げる国内源泉所得に係る所得の金額の計算上益金の額に算入されるものを除く。)は、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。この場合において、当該法人に対する同法第三十七条の規定の適用については、同条第一項中「次項」とあるのは、「次項又は租税特別措置法第六十六条の四第三項(国外関連者との取引に係る課税の特例)」とする。

また、移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)第3章(調査)においては、以下のように記載されています(2022/8/15時点)。

国外関連者に対する寄附金

3-20 調査において、次に掲げるような事実が認められた場合には、措置法第66条の4第3項の規定の適用があることに留意する。

イ 法人が国外関連者に対して資産の販売、金銭の貸付け、役務の提供その他の取引(以下「資産の販売等」という。)を行い、かつ、当該資産の販売等に係る収益の計上を行っていない場合において、当該資産の販売等が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に該当するとき

ロ 法人が国外関連者から資産の販売等に係る対価の支払を受ける場合において、当該法人が当該国外関連者から支払を受けるべき金額のうち当該国外関連者に実質的に資産の贈与又は経済的な利益の無償の供与をしたと認められる金額があるとき

ハ 法人が国外関連者に資産の販売等に係る対価の支払を行う場合において、当該法人が当該国外関連者に支払う金額のうち当該国外関連者に金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をしたと認められる金額があるとき

(注) 法人が国外関連者に対して財政上の支援等を行う目的で国外関連取引に係る取引価格の設定、変更等を行っている場合において、当該支援等に基本通達9-4-2の相当な理由があるときは、措置法第66条の4第3項の規定の適用がないことに留意する。

法人税法上の寄附金と移転価格税制上の寄附金の違い

寄附金規定については、通常の法人税の規定が適用されるため、更正期限は法定申告期限から5年となります。一方、移転価格税制での更正期限については、租税特別措置法として別枠で定められており、独立企業間価格と異なる対価の額に基づいて申告した法人税の法定申告期限から7年となっています。

実務上、移転価格の税務調査は長期に及ぶことが多く、調査期間が1年以上かかるケースも少なくないことから、調査期間中にもっとも古い調査対象年度の更正期限が過ぎ、6年間分(あるいは調査対象期間マイナス1年分)の更正を行うケースも多いのではないかと思われます。

なお、寄附金課税制度の全体像については移転価格解説の「寄附金課税」 をご参照ください。