移転価格解説

よくある寄附金課税事例

近年、税務署所管法人への移転価格調査が増えています。税務署所管となる多国籍企業の中には、海外子会社設立から間もない企業も多いと思われます。こうした企業では、現地法人の人材が限られる面があり、本社からの主張・出向により現地法人の支援がなされることが多くなりますが、これら出張・出向による支援活動に係る人件費・旅費等が本社負担のままになっているケースでの寄附金課税の事例が多くみられます。

海外子会社への支援の目的が海外子会社の売上の獲得、利益の計上に結び付くものであれば、その海外子会社は経済的な便益を受けているため、当然親会社に対価を支払う必要があります。そのような支援に対して本社が対価の回収を行っていなければ、海外子会社への寄附行為であるとみなされ、寄附金課税の対象となります。あるいは対価の多寡が問題とされた場合には、移転価格課税の対象にもなり得ます。

特に海外子会社の利益が出ていない期間においては、できるだけ費用を本社負担にしてしまう企業も多いですが、グループ間での取引においても、両者の受益関係を明確にし、現地法人が受益者となる場合には、相応の対価を支払う必要があります。

日本で製造した製品を海外の販売子会社を介して販売する場合、海外子会社への支援は日本本社の売上のためであるとも考えられるため、出張に係る対価を取る必要は無いのではないかというご質問を受けることもあります。確かに、海外子会社への支援業務においては、相互の便益となる面もあります。しかし、海外子会社にとってその支援が無ければ第三者に支援を依頼せざるを得ない状況であるとすると、やはり対価の支払いは必要と考えられます。

対価の設定方法

寄附金課税を回避するためには何らかの対価設定が必要となります。ところが、寄附金課税の関する規定では具体的な算定方法の定めがないため、対価設定にあたっては基本的に移転価格税制を参照することになります。そこで移転価格税制に当てはめると、少なくとも上記のような出張に係る総原価は回収しなければならないと考えられます。なお、移転価格税制は、原則として取引単位で対価を検証するため、支援業務に対する役務提供対価の問題と、製品の販売に係る対価の問題は分けて考えるべきかと思われます。

上記のような出張等による支援のほか、本社側で管理業務を代行しているようなケースなども、やはり現地法人が経済的な便益を受けているので、相応の対価を回収する必要があります。いずれにしても、基本的に海外子会社との全ての取引において、移転価格税制に従って適正な対価設定を行っていかなければ、課税の対象となるというリスク認識を持つことが必要です。