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移転価格課税と国内救済措置(不服申し立てと税務訴訟)

 税務当局による課税に対して不服があり、かつ相互協議の申立てができない又は相互協議に決裂した場合には、課税の取り消しを求めて不服申し立て又は税務訴訟を行うこととなります。まずは裁判の前に不服申し立てとして、異議申立て又は審査請求をすることとなります。

 異議申立てとは、課税庁に対して課税内容が事実誤認に基づく又は違法な課税であるとして取り消しを求めるものです。従って、課税を行った者に対して異議を申し立てるものですが、既に調査の中で調査官とは議論が尽くされており、特に移転価格課税の場合には国税庁による一元管理の元、当局内でのコンセンサスをとったうえで課税に至っていることから、異議申立てにより課税判断が覆る可能性は低いと言われています。

 異議申立てが認められなかった場合には、課税庁では無く独立の審査機関である国税不服審判所に対して審査請求を行うこともできます。なお、審査請求は異議申立てを経なくても行うことができます。審査請求により、課税の内容や調査の手続きに違法性が無いか、法令解釈に間違いが無いかを審査し、課税の取り消しを求めます。

 国税不服審判所の裁決の結果、課税の取り消しがなされない場合には、裁判所に訴訟を提起することができます。国税不服審判所は独立機関とはいえ国税組織の一部でもありますが、税務訴訟では、より独立性の高い判断がなされる可能性はあります。税務訴訟の場合は、地方裁判所での裁判から始まり、控訴がなされれば高等裁判所、場合によっては最高裁判所で争われる可能性もあります。移転価格課税に対する裁判の件数は多くても年に数件程度ですが、納税者が勝訴するケースもあります。

 こうした不服申し立て、税務訴訟の結果、課税が全部取り消しされる場合もあれば、課税に係る計算方法の一部誤りや、再計算の結果、一部の課税額を取り消す場合などもあります。

 税務当局としては、不服申立てや税務訴訟で敗訴した場合、その後の類似の事案についての税務執行にも関わることから、地方裁判所の段階では控訴する可能性が高いと考えられます。最高裁まで進む場合、そこで出た結論の影響力は非常に大きいことから、高裁で終わる事案も多いように思われますが、いずれにしても課税の取り消しには高裁までは戦う覚悟で臨む必要があります。

 このように不服申立てから裁判まで行うのには、相互協議以上の労力と費用がかかるものと考えられ、期間としても5年程度は想定しておいた方が良いかと思われます。そのため、数千万円程度の追徴税額ではコストの方が大きくなってしまうため、数十億円以上の追徴税額事案でなければ、国内救済措置に進むメリットは低いものと考えられます。

新興国取引の増加と移転価格問題の深刻化

近年では先進国のマーケットは成熟し、人口の増加・マーケットの拡大が見込まれる新興国での子会社設立や追加投資が増えています。

一方でインド、東南アジア、南米、アフリカなどの新興国は、移転価格税制執行の歴史・経験が浅い国も多く、租税条約の整備が十分で無いなど制度的にも未熟な国が多いのが実情です。また、研究開発機能を持ち技術特許等の無形資産を所有する親会社が多く所在する日本を含めた先進国と、資源・若い人口・重要の旺盛な市場を持つ新興国とでは利益の源泉や所得の帰属に関する考え方が大きく異なる面もあり、いずれかの国で移転価格課税を受けた場合、相互協議を行っても話がなかなかまとまらないケースが多くなっています。(新興国と先進国での利益の帰属に関する最近の議論に関しては巻末で記載)

相互協議は納税者が申し立てをすれば受け付けてはくれるものの、合意する義務はなく、特にこのような新興国との協議は合意できる可能性が高いとも言い切れないため、特に新興国子会社との取引で移転価格課税を受けた場合には二重課税が解消できるとは限らない点に留意が必要です。

中堅企業と移転価格課税

大企業が数億円から数十億円の追徴課税を受けた場合では、訴訟や相互協議を通して二重課税を解消することも多いですが、この相互協議が合意に至るまでには2~3年超の歳月がかかるということと、現実的には日本と相手国の両国で専門家のサポートが必要となるため、外部コストだけでも数千万円以上かかるケースが多いものと思われます。

追徴課税の金額が数億円以上の場合には、コストと歳月をかけてでも相互協議を行う経済的なメリットがありますが、数百万円から数千万円の追徴課税を受けた場合、相互協議を行っても還付税額が対応コストに見合わないケースが多いものと考えられ、一般的に中堅企業の小規模取引において二重課税を解消することは現実的には難しいものと考えられます。

一方で数百万円から数千万円の追徴課税というと中堅企業にとっては大きな金額なので、いかに課税を受けないように事前の対応をするかがより重要になると考えられます。

移転価格課税と救済措置としての相互協議

概要

 移転価格課税を受けた場合には、一つの所得に対して二つの国で納税している状態となるいわゆる二重課税状態となります。この二重課税の状態は、グループ全体として税を納めすぎている形になりますので、二重課税を解消するための救済措置が設けられています。しかし、この二重課税の解消には多くの労力と期間・コストが必要となるため、実際には多くの企業が二重課税状態のまま、移転価格による追徴課税を純粋な税務コストとして放置している状態にあります。この記事では、二重課税を解消するための方法と、そのステップ及び期間とコストについて解説します。

移転価格課税を受けても還付を受けることができるか?

海外取引について、どちらかの国で移転価格課税を受けた場合、その所得に対しては、取引相手国で既に納税が行われていることから、一つの所得に対して二重に税が課される状態(二重課税状態)となります。

移転価格課税は、自国で税が取り漏れている分について適正に課税を行うことを目的としており、懲罰的に二重の税を課すことを目的としている訳ではありません。各国は相互に租税条約を締結しており、こうした国境を越えた二重課税の状態が生じた場合には、取引両国で話し合いを行い、どちらかの国で納めすぎた税を還付することで二重課税を解消することができる制度を設けています。この国家間協議を「相互協議」と呼び、移転価格課税のような二重課税が生じた場合には、納税者は、この相互協議を申し立てる権利があります。

 例えばA国の親会社とB国の子会社との間で行われる取引について、A国で移転価格課税が行われたとします。納税者は、A国とB国の税務当局に、相互協議を申し立てると、両国の税務当局は、そのグループ会社への課税について、二重課税を解消するために協議(=相互協議)を行います。相互協議では、A国で行われた移転価格課税が適正なものであったのか、課税された所得はA国に帰属すべきものであったのかどうかが話し合われます。その結果、A国の課税が適正であったと両国が合意すれば、その分B国では税を納めすぎていたことになりますので、B国で納めすぎた税を還付することで二重課税を解消します。反対に、協議の結果、A国の課税には問題があり、課税された所得はやはりB国のものであるとして両国が合意すれば、A国は課税を取り消して二重課税を解消します。しかし、協議はそう簡単ではなく、どちらの国も、自国の税収を確保したいというインセンティブがあるため、二重課税状態となっている所得をめぐって、それがどちらの国に帰属すべきか議論が重ねられます。多くの場合は両国の意見をまとめて折衷案として、課税国が一部課税を修正し、残りを取引相手国で還付する形で合意するケースが多いように思われます。

このように、いずれの形でも、両国が所得の配分について合意できれば二重課税は解消されますが、両国の意見が全く相いれず、協議が決裂するケースもあります。税務当局は、相互協議を行う義務はあるものの、合意をする義務は無いため、両社の意見が折り合わなければ協議は決裂し、二重課税はそのままの状態となります。

相互協議の発生件数は、毎年140~200件前後ですが、概ね協議は合意しており、協議が決裂するケースは少数となっています。しかし、発生件数が処理件数を上回ることから、繰り越し件巣は増加傾向にあります。

相互協議のステップ、期間とコスト

① 事前相談

まず、相互協議を申し立てる前に、国税庁の相互協議室に事前の相談を行います。課税内容について概要を説明し、どのように相互協議を進めるかディスカッションを行います。

国税庁としては、相互協議の申立てを受ければ、相互協議を行うこととなりますが、追徴税額が数千万円以下のケースなどでは、納税者にとってもコストの方が大きい可能性もあり、本当に申立てを行うべき事案であるかどうかについても含めて検討がなされます。

相互協議を申し立てることとなる場合、申請書に記載すべき内容等についても相談をし、その上で申立書の作成を行います。

② 申立書の作成

事前相談の後、相互協議を申し立てるために申立書の作成を行います。相互協議の申立書自体は規定の書式があり、A4用紙で数枚の簡単なものですが、実際には添付資料として、課税に至った経緯を詳細に説明する必要があります。

相互協議では、移転価格課税について、それが取引相手国から見ても適正なものであるのかどうかを話しあい、取引相手国がその課税を適正だと認めれば取引相手国で課税処分に従った金額を還付し、取引相手国の主張で課税が不適切であるということを課税国側が認めれば、課税国が課税を取り消して還付をすることとなります。

相互協議で取り扱われる課税金額は数億円から数十億円を超えるものも多いことから、以下のような内容を十分に把握する必要があります。また、以下の情報は、相互協議を行う両国が同じように把握していなければ協議にならないため、同様の情報を申請書の添付資料とし、それぞれの国の言語で作成したものを同時に提出することとなります。

a. 事実関係

課税対象となった取引を行う両者の活動内容、属する産業の状況、取扱い製品や損益状況など、移 転 価格を検討するにあたって必要となる事実関係を詳細に説明する必要があります。

b. 税務調査における議論の内容

税務調査においては、税務当局による課税案と、それに対する納税者の反論が行われます。移転価格課税は、課税国側の所得が足りないために行われるものであり、反対に納税者の主張内容は、取引相手国に所得が帰属している状態が適切なものであるという内容となります。そのため、課税の適否を検討するにあたって、取引相手国としては、納税者の主張内容と近いものとなり、協議にあたっては、税務当局と納税者の主張とが、どちらが正しいのかという面も議論の対象となります。また、税務当局としても、なるべく自国の所得を多くする形で合意できるように、相手国との協議での駆け引きもあることから、調査での議論の過程を十分に理解することで、取引相手国とどのように話し合うかを検討することとなります。

c. 課税金額の算定方法

移転価格課税を行った際の移転価格算定方法及びその根拠となる比較対象会社の内容が、事実関係に照らして適切であるか否か、また、比較対象会社の選定方法が適切であるか否かなども、両国にとって重要な議論の要素となります。そのため、こうした情報についても、両国に説明する必要があります。

上記から、相互協議の申立てに係る添付資料は、通常数十ページのレポート形式になり、申立てを行うまでにも相当の期間と労力が必要となります。

③ 申請書の提出・審査(日本側)

相互協議の申立書及び添付資料を提出した後は、国税局により申請内容の審査が行われます。最終的には国家間協議により、両国での利益配分の合意に向けて話し合うこととなりますが、その前に日本当局として申請内容が許容されるものであるか否か、及び、相手国からどのような主張を受けるかを事前に検討することとなります。

日本当局としては、自国への所得の帰属を主張することとなるため、それを理論的に説明できるよう、追加的な分析資料の提出を依頼されたり、不明な点への質問への対応も求められ、通常、審査には数カ月を要します。

④ 申立書の提出・審査(相手国側)

日本の場合、相互協議の申立てを行うと、申立てを受け付けた上で、審査を行い、協議へと進みますが、中国などの場合、相互協議を行うことが自国にとって不利なもの(中国側で還付を行う必要があるもの等)であれば、申立て自体をなかなか受理してくれないケースもあります。日本の場合では、事前相談⇒申立ての受理⇒審査という流れとなりますが、中国などの場合では、実際には事前相談⇒申立て内容の審査⇒申立ての受理という流れとなっています。

こうなりますと納税者としても、相互協議の申立てを受理してもらえなければ二重課税の解消ができないため、なるべく日本側で還付を受ける形で申請書を作成し、中国等の相手国に申請を受け入れてもらえるようにしたりするケースもありますが、そうしてしまうと、日本の当局としては、その内容を受け入れられないといった結果になる場合もあり、特に新興国との協議にあたっては、申立てを受け付けてもらうこと自体でも、大変な労力を要する場合もあります。

国によっては、そうした特殊な場合もありますが、一般的には日本と同じように申請書及び添付資料としての説明資料を提出した後、それを税務当局により審査したうえで、必要な追加分析資料等を求められ、相手国との議論の下地ができた段階で協議へと進むこととなります。

⑤ 相互協議

納税者から申し立てられた内容及び提供された情報を元に年に数回行われる国家間協議で、課税された取引の所得がどちらの国に帰属すべきものかが議論されることとなります。相互協議は、様々な国との間で行われており、米国や中国など相互協議の申立ての多い国との間では年に数回、申立ての少ない国との間では年に1~2回の場合もあります。そうした限られた協議回数の中で、多くの事案について議論を行わなければなりません。一方で、1つの事案が終結するまでには、数回の議論を必要とすることから、複雑な事案となると数年間を要する場合もあります。相互協議は平均的に2年程度とされていますが、新興国との協議の場合、2年で終結することは難しく、3年以上かかるケースが多いようです。

上記のように、相互協議の申立てにあたっては、税務当局への説明や資料の作成などに大変な労力がかかり、数年間協議が行われている間、税務当局をサポートし続けなければならなりません。また、それを課税国と取引相手国の両税務当局に対して行っていかなければならなりませんが、これを納税者だけで行うことは困難だと思われます。そのため、通常、両国で専門家を雇うこととなりますが、大手法人の場合、片方の国だけで最低数千万円程度の予算が必要となるケースも多いことから、一億円未満の追徴税額である場合、二重課税の解消による還付金の額よりもコストの方が大きい可能性もあります。そのため、相互協議を申し立てずに二重課税のままで終える事案も少なくありません。

無形資産の共同開発と移転価格

概要

一つの開発テーマについて、親会社と国外関連者が共同開発する場合や、一つの商標について親会社がデザイン・企画・立案を行い、国外関連者が広告宣伝などにより認知度を高める場合など、一つの無形資産を複数の者で形成・維持・発展させるケースもあります。 

このような場合、無形資産の所有者は、当該無形資産の構築に貢献した者が、それぞれの貢献割合に応じて共同所有することとなります。通常、この貢献割合については、当該無形資産の構築にあたって負担した費用の割合となります。この場合、当該無形資産の使用により生じた所得についても、当該無形資産の構築に貢献した各者について、それぞれの貢献割合に応じて分配されることとなります。

税務調査における見解の相違のポイントと対応

①海外子会社の活動が重要な無形資産の構築活動であるのか否か

税務調査において海外子会社への超過利益の帰属が認められるには、海外子会社が行う開発活動が、企業グループの高い収益性の実現に貢献する重要な無形資産の構築活動にあたるかどうかという点について、明確な説明が求められます。例えば、現地化開発の場合、単に現地の規定に合わせて商品のサイズを変更したり、製品の表示を現地語に翻訳する程度のことであれば、通常の活動の範囲内として、無形資産の構築活動としては認められないケースもあります。どの程度の活動であれば重要な無形資産の構築活動にあたるかは明確な基準はありませんが、客観的に見て、親会社の開発活動と比較しても海外子会社の活動が収益に大きく貢献しているということが明らかである必要があるものと考えられます。

税務当局の理解を得るため、できる限り客観的な情報やデータ等で、海外子会社の利益への貢献を立証できるよう準備しておくことが望ましいと考えられます。

②海外子会社が重要な無形資産の所有者であるのか否か

海外子会社が本社に開発委託をしている場合や、開発費の負担をしている場合、前述の通り、海外子会社が当該開発の統括・管理をしていなければ海外子会社が重要な無形資産の所有者とは認められません。  海外子会社が、そのような統括・管理活動をしていることを税務調査の際に立証できるよう、メールでのやり取りや議事録などを作成し、保存しておくことが望ましいと考えられます。

委託開発取引の移転価格

委託開発により、開発活動を行う者と費用の負担者が異なるケースがあります。

移転価格は実態を重視しますので、単純な費用の付け替えだけで、無形資産の所有者を操作すること、具体的には(低税率国の)費用負担者を無形資産の所有者と位置付けて多くの所得を当該負担者に帰属させるような対応は認められません。

一方、独立企業間取引においても、委託開発取引として費用の負担者が開発された無形資産の所有者となる場合があります。この場合の前提には、委託者が必要な技術の開発を依頼するため、研究開発に係る予算や開発テーマを決め、委託した開発テーマの進捗状況を管理し、開発された内容について依頼内容と異なっていれば修正を求めるなどの対応を行い、開発された技術の権利保護等を行うものと考えられます。

このように、委託開発の依頼者が実質的に意思決定を行うことで研究開発活動を主導しており、すなわち当該開発に係るリスクを負担する能力があり、かつその開発に係る費用を負担しているような場合には、当該委託者が無形資産の所有者として認められるものと考えられます。

過去の裁判で、子会社が親会社に対して委託開発を行い、当該開発の成果である無形資産及びそれに帰属する超過利益がどちらに帰属するかが争われました。その事案では、最終的に子会社側が研究開発活動に係るテーマ決め、進捗管理等を行い、研究開発活動を主導していることが認められ、子会社の親会社に対する委託開発の結果、子会社が無形資産の所有者であることが認められました(課税の帰着としては事業年度によって納税者一部勝訴あるいは全部勝訴)。

このように、委託開発に係る無形資産の所有者は、単純に委託者・費用の負担者かどうかで判断するのではなく、実態として当該開発活動を統括する者が誰かを判断することが重要となります。

通常、独立企業間において委託開発を行なう者であれば、以下のような機能を有していると考えられますので、具体的な実態判断基準として参考になれば幸いです。

◆研究・マーケティングプログラムのデザイン及びコントロール
◆予算の管理及びコントロール
◆無形資産の開発プログラムに係る戦略的な決定へのコントロール
◆無形資産の防御・保護に係る重要な決定
◆無形資産の価値に重要な影響があると考えられる機能に係る品質管理へのコントロール

また、移転価格参考事例集の事例14の解説では、無形資産の委託開発を行なう者が有する「意思決定」及び「リスク管理」について、以下のように解説されています。このような当局の通達等も参考にしながら、グループとして

「意思決定」とは、具体的開発方針の策定・指示、意思決定のための情報収集等の準備業 務などを含む判断の要素であり、「リスク管理」とは、例えば、無形資産の形成等の活動に内在 するリスクを網羅的に把握し、継続的な進捗管理等の管理業務全般を行うことによってこれらの リスクを一元的に管理する業務等である。

本稿の概要

本稿では、移転価格に関する税務調査がどのように開始され、課税判断が下されるまで税務当局とのやりとり、ミーティング等の流れについて解説します。また、各ステップについて、納税者としてどのように対応すべきかについても解説します。

調査官からの電話

税務調査を行うことが当局内で決まった場合、納税者とその顧問税理士に突然電話により税務調査を行うことが告げられます。(平成26年7月1日以後に行う事前通知については、納税者の方の事前の同意がある場合には、税務代理権限証書を提出している税理士等に行えば足りることとされています。)また、調査を行うことについて、以下の事項を伝えることとされています。

 ①実地調査を開始する日時
 ②調査を行う場所
 ③調査の目的
 ④調査の対象となる税目
 ⑤調査の対象となる期間
 ⑥調査の対象となる帳簿書類その他の物件
 ⑦その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項

なお、調査対象となる法人が、違法又は不当な行為を行っている可能性が高いと判断される場合には、事前通知を行わずに、突然実地調査を行う場合もありますが、国際課税の対象となるような規模の企業であれば、こうした突然の実地調査が行われる例は多くないものと考えられます。

対応方法

税務調査への対応については、納税者が希望する場合、対応の窓口として顧問税理士等の代理人を通じて行うことも可能です。しかし、移転価格税制の問題について課税を受けてしまった場合、将来的なグループ間での利益配分にも影響してくるため、会社としてしっかりと理解していく必要があります。最終的な判断については会社に委ねられるため、移転価格調査への対応については、代理人任せにせず、専門家を入れる場合にも、会社として積極的に対応していくことが望ましいと考えられます。

調査日程

 調査の日程に関しては、納税者の事業や経理担当者(調査に対応する者)の業務に支障をきたさないよう、一定の考慮はなされるものと思われますが、事業上やむを得ない相当な理由がある場合を除き、日程を長期間延期することは認められない可能性が高いものと考えられます。

なお、移転価格調査においてローカルファイル等の提出が求められた場合、調査官から指定された日まで(同時文書化対象取引:45日以内の指定日、同時文書化対象取引以外:60日以内の指定日)に提出できなければ、いわゆる推定課税や反面調査の対象となります。

ローカルファイル等の移転価格文書の準備には、通常少なくとも3カ月前後の期間を要することから、移転価格調査への事前準備は、遅くとも移転価格調査が入る前には完了している必要があります。

対応方法

会社によっては決算時期や繁忙期などで調査官とのミーティングになかなか時間が割けないケースもあります。しかし、納税者として税務調査に対して協力的に対応しなければ、税務当局としても適正な税の徴収ができなくなるため、場合によっては推定課税というみなし課税の形で一方的に課税を行わざるを得ない状況と判断される可能性もあります。

従って、できる限り協力的に対応する必要がありますが、事業上やむを得ない場合には、いつからの調査開始であれば対応が可能か正直に調査官に相談してみるのが良いと思われます。数か月先に延ばしてもらうことは難しいと思われますが、延期が必要な理由を説明し、納得のいくものであれば、ある程度は認められるものと思われます。

基本的な資料の提出

移転価格の検証にあたっては、国外関連者と取引される製品・役務等の内容や、各国外関連者がどのような活動を行っているかを詳細に確認したうえで、課税判断をしていく必要があることから、まずは事実確認のため、様々な資料の提出を求められます。具体的には、以下のような資料の提出が求められます。また、それぞれの資料から読み取れる内容は以下の通りです。

国外関連者の損益計算書

日本の会社と国外関連者との取引の結果、利益配分が異常な状況になっていないかを確認するには、まずは国外関連者の損益計算書を確認します。後述するとおり、移転価格の検証は、「取引単位」で行うものであり、国外関連者単体の損益だけを見て課税することは原則としてありません。ただ、効率的に調査を行うには、そもそも移転価格税制上の問題があるのかどうかを簡便的に判断し、所得配分がおかしいと考えられる国外関連者に調査対象を絞る必要があります。例えば、海外子会社が複数ある場合、全ての海外子会社の損益計算書を見たうえで、取引規模が大きく利益水準の異常な子会社をいくつかに絞り、選定された会社を重点的に調査することが考えられます。

販売管理費の明細

国外関連者の販売管理費の明細を見ると、どの程度開発費や広告宣伝費をかけているかなどが分かるため、概ねの活動内容が分かります。また、人件費の割合が大きいのか、減価償却費の割合が大きいのかなどから、労働集約的な事業なのか、設備産業なのかなども推察できます。

日本本社及び海外子会社の組織図

日本本社及び国外関連者の組織図を見ると、各会社がどのような機能を果たしているかを推察することができます。例えば、製品の開発をどちらが行っているのかを確認するには、海外子会社に開発部門があるのかどうかや、開発部門がある場合、製品開発部門なのか生産技術開発部門なのかで、どのような開発内容なのかも概ね推察できます。また、販売子会社と日本本社との関係を見る場合、マーケティング部門があるのかどうかや、営業の人員を見ることで、単純な卸売なのか、積極的な顧客開拓を行っているのかが推察できます。

切り出し損益

移転価格の検証は、「取引単位」で行うことから、取引別の損益情報の提出が求められます。この「取引単位」をどのような範囲で設定するかについては事案にもよりますが、例えば、海外子会社が日本から製品を仕入れ販売する取引と、部品・材料を仕入れて現地で製造・加工して販売する取引とでは、前者の場合海外子会社は卸売としての機能を果たしており、一方で後者の場合海外子会社は製造業者としての機能を果たしていることから、両者は分けて検証する必要があります。

 移転価格の文書化(いわゆるローカルファイルの作成等)や事前の対応がなされていれば、こうした取引別の損益は準備できているかもしれませんが、このような取引別損益(切り出し損益)が無ければ、調査官からの依頼に応じて作成する必要があります。

 なお、移転価格の検証は、売上総利益又は営業利益をベースに行われることが多いことから、切り出し損益も、営業利益までのものを作成する必要があります。通常、多国籍企業であれば、会計ソフトにより売上と仕入原価については取引別に管理されていることも多いことから、売上総利益までの計算はそれほど苦労しないものと考えられますが、営業利益まで算出するには合理的に販売管理費を配賦計算する必要があるため、事前に準備が必要です。特に、事前の作成が無い場合には、作成してみた結果、特定の商流について利益配分にズレがある場合、その取引だけを抜き出して課税される可能性も高いため、注意が必要です。

経営会議、役員会議の議事録等

 海外子会社の製造設備の投資に係る意思決定や、海外での販売戦略に係る意思決定がどのように行われているのかを判断するにあたって、こうした経営会議資料の提出が求められることがあります。親会社と子会社との関係において、子会社は親会社の指示に従って事業を行っているのか、または、子会社がある程度主導権を持って事業を行っているのか、また、その結果生じるリスクについてはどちらが負うべきかなどの判断材料として利用されることとなります。

海外子会社側で作成したローカルファイル

海外子会社が現地でローカルファイル等の移転価格関連資料の準備をしている場合には提出が求められることがあります。通常、日本に本社がある場合、本社側で作成して翻訳版を現地で持っておくなどの対応をしている会社が多いように思われますが、現地が独自にローカルファイル等を準備している場合もあります。

 このようなケースで注意したいのが、海外子会社側で作成したローカルファイル等が日本の調査において不利になる場合もあるということです。ローカルファイル等は、その年の申告所得が適正であったことを立証するものですが、海外子会社の現地国にとっては、適正と思われる水準よりも多く納税していれば問題無いということになります。そのため、現地で作成されたローカルファイル等が、「適正な水準よりも多く現地で納めています」という内容になっているケースもあり、それが日本の調査の際に提出されると、過剰に現地で納めた税金分については日本側で納めるべきとして課税の引き金になるケースもあります。

 理想としては、グループ間の取引価格をコントロールする本社が移転価格のローカルファイル等の作成を行い、それを現地語に翻訳する形で現地の文書化規定に対応する方が良いものと考えられます。

対応方法

税務当局から求められる資料は原則として提出しなければなりません。税務当局から提出を求められる資料について、納税者が提出をしない場合には、税務当局としても課税の執行に支障をきたすことから、推定課税として秘密情報に基づく一方的な課税を行うことが制度上認められているため注意が必要です。調査において提出すべき資料は明確化されており、これらの資料の提出ができない場合には推定課税を行うことができるものとされています。

 移転価格課税には正確な事実認定が前提となることから、詳細な事実関係を把握することが企図されます。そのため、非常に多くの資料要求を受けることとなりますが、要求資料の中には必要性が低いものも含まれます。場合によっては必要性が低い割に資料の準備に非常に手間がかかるものもあるため、作成や準備手間のかかる資料については、そこまでして必要な資料であるのかどうか調査官に確認し、必要性が低ければ提出を免除してもらうことを相談しても良いでしょう。

また、パソコン等を押収されデータを見られるような事例も耳にしますが、個人情報や秘密情報が含まれる資料の提出を求められた場合には、事情を説明して資料の提出方法について確認・相談をした方が良いものと思われます。  

なお、調査における調査官の質問検査権については以下のように規定されており、国外に保存されている資料の提出についても質問検査の対象の範囲内に入っていることに留意が必要です。

国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達 

(質問検査等の対象となる「帳簿書類その他の物件」の範囲)

1-5   法第74条の2から法第74条の6までの各条に規定する「帳簿書類その他の物件」には、国税に関する法令の規定により備付け、記帳又は保存をしなければならないこととされている帳簿書類のほか、各条に規定する国税に関する調査又は法第74条の3に規定する徴収の目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれることに留意する。

(注) 「帳簿書類その他の物件」には、国外において保存するものも含まれることに留意する。

参考:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/01.htm#a01_5

本稿の概要

本稿では、ヒアリングから課税に至るまでのステップとともに、各ステップにおける対応方法について解説します。すべてのステップがすべての調査で行われるわけではありませんが、対応に当たっての考え方などご参考になれば幸いです。

ヒアリングの実施

調査官は、移転価格調査の実務②でお伝えしたような基本的な資料を見た上で、資料に関する疑問点や、資料では分からない内容を確認するため、ヒアリングを行います。ヒアリングの内容については、主に国外関連者と取引を行う製品や役務の内容説明や、海外子会社がどのような活動を行っているかなどを聞くこととなります。合う程度は経理部門等で対応することもできますが、海外子会社の詳細な活動内容については、現地に出向していた責任者や、営業担当などが対応することも多いです。また、開発内容についての説明を求められた場合には、開発部門の人員が対応することもあります。

対応方法

日本での税務調査においては、日本側の利益配分が少なすぎる又は海外子会社への利益配分が多すぎるのではないかという主張を受ける可能性が高いものと考えられますが、その根拠として日本本社の高い技術力が収益に貢献していることや、海外子会社の販売先がほとんど日系企業の現地法人などである場合に、日本の営業活動に基づく顧客網が重要な無形資産となっていることなどの事実関係を確認したいものと考えられます。当然、事実に基づいて説明を行わなくてはなりませんが、説明の仕方によっては自社の技術力を過度に誇張してしまったり、日本本社の活動内容の重要性を事実よりも大きく説明してしまうと、調査官に誤解を与えてしまう可能性があります。調査官側も、日本側の帰属利益が大きいことを主張するには、そのような証言を取りたいインセンティブもあるため、お互いに事実誤認が無いよう注意が必要と考えられます。

工場見学

海外子会社の活動内容を把握するにあたり、製造子会社が日本の工場と同様の製造工程を行っている場合などは、日本の工場を見学することで、海外子会社の工場活動内容の説明を求めることもあります。

 工場見学の目的は、海外子会社の活動内容を把握するだけではなく、日本でつちかわれた技術がそのまま海外に持っていかれているのかどうかや、日本の工場と海外子会社の工場との違いを確認することで、日本から海外子会社への技術移転の有無や程度を検討する材料ともなります。特に日本の工場をマザー工場として、設備等のレイアウトや工程の手順がそっくり同じであれば、全面的な技術の供与が明白であると考えられます。反対に、海外子会社の工場が、現地人員による改良・改善により、日本の工場よりも優れた内容になっているような場合には、そうした生産技術の改善に対する利益の帰属も検討しなければならない可能性もあります。

対応方法

前述の「ヒアリングの実施」への対応と同様に、税務当局としては日本本社の収益への貢献度の高さについて、事実関係の確認をしたいインセンティブがあることから、製造工程についても日本の技術力の高さを過度に誇張して誤解を与えないように注意が必要です。また、海外子会社の改良・改善活動などがあれば、その内容も含めて正確に説明し、事実誤認が無いようにすることが重要であると考えられます。

中間意見の提示

ある程度事実関係を把握し、それを損益情報と照らしたところで、海外子会社への利益配分について問題があるか否かを中間意見として税務当局の見解が提案されます。問題なしと判断されれば、後述する「調査終了の手続き」のとおり更正または決定(課税)しない理由を明確にしたうえで調査を終えることとなりますが、申告内容や海外子会社との所得配分について問題があると判断された場合には、その問題点について税務当局の見解を口頭により説明され、場合によっては、具体的な課税金額の案が提示されることもあります。ただし、この段階では納税者から反論を行うことができます。

 税務当局としては、納税者から説明を受けた内容を前提として課税案を出しますが、税務当局の理解に誤りがある場合もあるため、まずは中間意見として提示をし、事実誤認等があれば、それを聞いた上で、課税判断をしていくこととなります。税務当局が考えていた課税案が事実誤認によるものであれば、課税案の修正又は取消しがなされることもあります。税務当局としても、事実誤認のまま課税をしてしまうと違法な課税となってしまう恐れがあるため、まずは課税案を提示し、納税者の理解が得られるよう議論がつくされます。

 自らの取引が正しかったと考える納税者と、税の取り漏れを防ぎたい税務当局との間では、同じ事実関係に対しても解釈が異なる場合もあります。また、移転価格税制の法解釈が異なることもあることから、特に課税金額が大きな事案においては税務当局の主張と、それに対する納税者の反論で議論が長引くケースが多くなっています。

対応方法

税務当局から移転価格の設定に問題があると主張された場合、自社の価格設定ルールが適正であることを反論するには、移転価格税制の理論に基づいて反論書を作成し、提出することが有効であると考えられます。感覚的な主張や、移転価格税制とは関係の無い面からの主張では説得力が低く認めてもらえる可能性は低いものと考えられますが、具体的な数値に基づく分析を含んだ反論書であれば説得力が高く、税務当局の誤認や法令解釈を覆す材料となり得る可能性が高くなります。

 また、納税者の主張が聞き入れられず課税に至ってしまった場合、相互協議や不服申し立て等に進むこととなりますが、その際に税務調査でどのような議論がなされたかの情報も必要になることから、税務当局とのディスカッションはできるだけ議事録に残し、当局の主張に対する反論についても、お互いの理解及び備忘記録のため書面で行った方が良いものと考えられます。

修正申告の勧告

税務当局による課税案について議論がなされ、事実誤認も無く、明らかに納税者が移転価格税制に対応していなかったと判断される場合、過去の取引に関して修正申告をすることを勧められます。ここで、納税者として反論の余地が無く、税務当局からの課税案について異論が無ければ、修正申告を行い、過去日本側で漏れていた申告所得について、修正(又は期限後申告)をし、法人税を追加で納付することとなります。

 なお、過去の申告漏れを修正する方法としては、修正申告の他、税務当局による更正を行うこともできます。一般的には修正申告が勧められます。税務当局としては、納税者と敵対する立場では無く、納税者の理解を得た上で適正な申告を行うことを求めていると考えられ、更正により課税を行うことはできる限り避けるべきものと考えられます。ただし、修正申告を行う場合には、納税者が同意のもと自ら修正したことを前提としていることから、税務当局に対して不服申し立てや租税裁判を行うことができなくなるため、修正申告の内容が本当に適切なものであるのかどうか、慎重に判断する必要があります。

対応方法

実際の調査の現場においては、税務調査への対応には時間を取られるうえ、精神的に追い詰められるケースも多いことから、早く調査を終えたいために安易に修正申告に応じてしまうケースもあります。また、現実問題として税務調査においては非違する項目について交渉ごとになるケースもあるため、一定の条件のもと修正申告を受け入れるケースもあります。

 しかし、移転価格調査に関しては、移転価格税制に明らかに反しているケースばかりとは限らず、税務当局の見解に誤りや事実誤認があるケースも少なくないことから、納得のいかないまま安易に修正申告に応じず、議論を尽くしたうえで判断を行うことが重要であると考えられます。当局の主張に納得がいかない場合や、相互協議及び不服申立を検討する場合には、修正申告に応じずに更正を受けることも選択肢の一つと考えられます。

更正通知

税務当局による課税案について、税務当局と納税者との間で事実関係の解釈や移転価格税制の法令解釈に見解の相違があり、両者の意見が食い違ったまま平行線をたどる場合、納税者が修正申告に応じないとなると、税務当局としては職権によりに更正を行うこととなります。この場合、更正通知書が出され、納税者はそれに従って追徴税額を納付することとなります。

 修正申告をする場合と更正を受ける場合とでは、主な違いは納税者が税務当局からの課税案に同意するかどうかについてです。そのため、修正申告の場合には、納税者が課税案に納得していることを前提としているため、原則としては後で不服申し立てや租税裁判を行うことができなくなります。一方で、更正を受ける場合、納税者は課税案に不服があることを前提としているため、課税を受けた後、不服申し立てや租税裁判が行われることもあります。

対応方法

更正通知書には、課税を行う内容と課税金額の計算方法が記載されますので、当該無いようについて事実誤認や計算方法に誤りが無いか、また、不明な点等が無いか確認する必要があります。基本的には更正通知書が出る前の時点で議論は尽くされているはずなので、ここで新たな課税案が出てくることは無いものと考えられますが、更正を受けた後には相互協議又は不服申し立て等を行う可能性があることを前提として、不明な点等が無いようにしておくことが重要であると思われます。

納税の猶予

 移転価格課税を受けた場合、速やかに追徴税額の納付を行わなければなりませんが、課税による二重課税を解消するために国家間協議(相互協議)を申し立てる場合には、担保を提供すれば相互協議が合意するまでの間、納期限を延長することができます。

租税特別措置法 第六十六条の四の二

(国外関連者との取引に係る課税の特例に係る納税の猶予)

法人が租税条約の規定に基づき国税庁長官(・・・)に対し当該租税条約に規定する申立てをした場合には、税務署長等(・・・)は、当該申立てに係る前条第二十七項第一号に掲げる更正決定により納付すべき法人税の額及び同項第三号に掲げる更正決定により納付すべき地方法人税の額(当該申立てに係る条約相手国等との間の租税条約に規定する協議の対象となるものに限る。)並びに当該法人税の額及び地方法人税の額に係る同法第六十九条に規定する加算税の額として政令で定めるところにより計算した金額を限度として、当該申立てをした者の申請に基づき、その納期限(同法第三十七条第一項に規定する納期限をいい、当該申請が当該納期限後であるときは当該申請の日とする。)から当該条約相手国等の権限ある当局との間の合意に基づく同法第二十六条の規定による更正があつた日(当該合意がない場合その他の政令で定める場合にあつては、政令で定める日)の翌日から一月を経過する日までの期間(第七項において「納税の猶予期間」という。)に限り、その納税を猶予することができる。ただし、当該申請を行う者につき当該申請の時において当該法人税の額及び地方法人税の額以外の国税の滞納がある場合は、この限りでない。

2  税務署長等は、前項の規定による納税の猶予(以下この条において「納税の猶予」という。)をする場合には、その猶予に係る金額に相当する担保を徴さなければならない。ただし、その猶予に係る税額が百万円以下である場合、その猶予の期間が三月以内である場合又は担保を徴することができない特別の事情がある場合は、この限りでない。

なお、納期限を延長している間については、延滞税は免除されることとなります。

租税特別措置法 第六十六条の四の二

(国外関連者との取引に係る課税の特例に係る納税の猶予)

7  納税の猶予をした場合には、その猶予をした法人税に係る延滞税及び地方法人税に係る延滞税のうち納税の猶予期間(・・・)に対応する部分の金額は、免除する。・・・。

無形資産をめぐる当局との見解の相違

移転価格税制上の無形資産

所得の配分を考えるにあたっては、無形資産の所在が論点となることが多いです。特に一般的な同業者では得られないような多額の利益や高い収益性を実現している場合には税務当局と納税者との間で見解の相違が生じやすく、その論点が無形資産に求められるケースは枚挙にいとまがありません。

その背景の一因は、利益の源泉となる無形資産の定義があいまいであり、解釈によって異なることにあります。

日本の移転価格税制上、無形資産については、以下の通り定義されており、広くとらえています。

措置法通達66 の4(8)‐2

無形資産とは、有形資産及び措置法令第39条の12第13項第2号に規定する金融資産以外の資産で、その譲渡若しくは貸付け(資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為を含む。)又はこれらに類似する取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合にその対価の額が支払われるべきものをいうのであるから、例えば、次に掲げるものはこれに含まれることに留意する。(令元年課法2-10「三十八」により追加)

(1) 令第183条第3項第1号イからハまでに掲げるもの
(2) 顧客リスト及び販売網
(3) ノウハウ及び営業上の秘密
(4) 商号及びブランド
(5) 無形資産の使用許諾又は使用許諾に相当する取引により設定される権利
(6) 契約上の権利((1)から(5)までに掲げるものを除く。)

ここで、重要なのは移転価格上問題となる無形資産は、あくまで対価性がある無形資産に限られている点です。事業上重要な価値を有するか否かは、企業グループの活動内容や属する市場の状況によって大きく異なります。例えば、精密部品や機械などのテクノロジー産業においては、より高い技術力による付加価値の高い製品ほど高い価格で販売することが可能となるため、特殊な技術の特許や技術ノウハウは重要な価値を有する場合が多いと考えられます。一方で、アパレル業界や化粧品業界などでは、技術的な面にそれほど価値が無い場合もあり、むしろ広告宣伝によるブランディングや商標等の方が重要な価値を有するケースが多くみられます。従って、個々の事案について、開発に係る知識やノウハウ、広告宣伝活動等が「重要な価値」を有するものであるか否か、独立企業間であれば対価をとるべきものであるか否かを詳細に検討する必要があります。

 移転価格税制においては、無形資産の実質的な所有者に、当該無形資産の使用により生じた超過利益が帰属することとなるため、税務調査においては、当該無形資産の所有者がどの法人であるのかについて、企業グループの活動実態から判断していうこととなります。そのため、実態をしっかりと把握したうえで、無形資産の帰属関係について、具体的な根拠に基づいて説明できるようにすることが当局との見解の相違を避けるうえで重要になります。さらに踏み込んで言えば、グループ内で統一的な見解を準備するとともに、それに整合する移転価格設定方針を定めておくことが重要になります。