本稿の概要
本稿では、移転価格に関する税務調査がどのように開始され、課税判断が下されるまで税務当局とのやりとり、ミーティング等の流れについて解説します。また、各ステップについて、納税者としてどのように対応すべきかについても解説します。
調査官からの電話
税務調査を行うことが当局内で決まった場合、納税者とその顧問税理士に突然電話により税務調査を行うことが告げられます。(平成26年7月1日以後に行う事前通知については、納税者の方の事前の同意がある場合には、税務代理権限証書を提出している税理士等に行えば足りることとされています。)また、調査を行うことについて、以下の事項を伝えることとされています。
①実地調査を開始する日時
②調査を行う場所
③調査の目的
④調査の対象となる税目
⑤調査の対象となる期間
⑥調査の対象となる帳簿書類その他の物件
⑦その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項
なお、調査対象となる法人が、違法又は不当な行為を行っている可能性が高いと判断される場合には、事前通知を行わずに、突然実地調査を行う場合もありますが、国際課税の対象となるような規模の企業であれば、こうした突然の実地調査が行われる例は多くないものと考えられます。
対応方法
税務調査への対応については、納税者が希望する場合、対応の窓口として顧問税理士等の代理人を通じて行うことも可能です。しかし、移転価格税制の問題について課税を受けてしまった場合、将来的なグループ間での利益配分にも影響してくるため、会社としてしっかりと理解していく必要があります。最終的な判断については会社に委ねられるため、移転価格調査への対応については、代理人任せにせず、専門家を入れる場合にも、会社として積極的に対応していくことが望ましいと考えられます。
調査日程
調査の日程に関しては、納税者の事業や経理担当者(調査に対応する者)の業務に支障をきたさないよう、一定の考慮はなされるものと思われますが、事業上やむを得ない相当な理由がある場合を除き、日程を長期間延期することは認められない可能性が高いものと考えられます。
なお、移転価格調査においてローカルファイル等の提出が求められた場合、調査官から指定された日まで(同時文書化対象取引:45日以内の指定日、同時文書化対象取引以外:60日以内の指定日)に提出できなければ、いわゆる推定課税や反面調査の対象となります。
ローカルファイル等の移転価格文書の準備には、通常少なくとも3カ月前後の期間を要することから、移転価格調査への事前準備は、遅くとも移転価格調査が入る前には完了している必要があります。
対応方法
会社によっては決算時期や繁忙期などで調査官とのミーティングになかなか時間が割けないケースもあります。しかし、納税者として税務調査に対して協力的に対応しなければ、税務当局としても適正な税の徴収ができなくなるため、場合によっては推定課税というみなし課税の形で一方的に課税を行わざるを得ない状況と判断される可能性もあります。
従って、できる限り協力的に対応する必要がありますが、事業上やむを得ない場合には、いつからの調査開始であれば対応が可能か正直に調査官に相談してみるのが良いと思われます。数か月先に延ばしてもらうことは難しいと思われますが、延期が必要な理由を説明し、納得のいくものであれば、ある程度は認められるものと思われます。