お知らせ

移転価格調査の執行体制の変化と最近の調査動向

2020年7月開始の新事務年度より、それまで国際課税の専門部署として置かれていた国税局の「国際情報課」に代えて、「国際調査管理課」「国際調査課」「事前確認審査課」が東京局・大阪局に設置されました(名古屋局も同様ですが「事前確認審査課」はありません)。

ここで少し歴史を振り返ります。2020年6月以前、国税局は「国際情課」という移転価格の税務調査を行う専門チームを置き、特に東京国税局及び大阪国税局では古くから積極的な移転価格調査が行われてきました。名古屋国税局も2013年7月に国際情報課を設立し、移転価格調査に力を入れるようになりました。

時を経て、マーケットリーダーとなる巨大企業への調査が一巡し、グローバルの一層の進展により国際税務の問題は複雑化しました。

そこで、上記の通り組織変更が行われ、東京局および大阪局には、移転価格を含む国際課税全般について調査の必要性が高い法人に対する調査を担当する部署として、「国際調査第1~3部門」(大阪局では「国際調査部門」)が設置され、これまで移転価格のみ調査していた「特別国税調査官(移転価格)」は「特別国税調査官(国際担当)」となりました。

この体制変更によって国税局レベルでは国際取引について横断的にメスを入れやすくなったと考えられます。言い換えれば、国外関連取引の金額が比較的少額であっても、移転価格に関する調査が行われる可能性が高まったと観ることができます。その意味で、国税局所管となる資本金1億円以上の企業はこれまで以上にしっかりとした対応が求められると言えます。

一方、資本金1億円未満の企業は、国税局のように多くの専門家を要する調査の対象になりづらいという点では、資本金1億円以上の企業に比べると相対的にリスクが低いということになります。とはいえ、国税局の組織再編は国の方針の現れと考えられ、当局の多国籍企業に関する国際課税へのモチベーションは全体として高まっていると考えるのが妥当でしょう。

実際、近年は国税局から主要な税務署に移転価格調査を行うことができる人材を異動させているうえ、簡易な事案については税務署の国際税務専門官でも課税処理を行う体制が整ってきていることから、我々専門家も税務署所管法人での調査対応を行うケースも増えてきました。さらに、税務署所管法人の移転価格調査に国税局所属メンバーが参加するケースも目の当たりにするようになりました。

このような調査実務動向を踏まえると、税務署所管法人でも、過去との比較にいては移転価格に関する調査受ける可能性は高まっているように感じます。

文責:西村