移転価格解説

海外寄附金課税制度と移転価格税制②(寄附金規定の歴史と移転価格)

海外寄附金に係る検討の歴史と移転価格税制との関係性

寄附金規定では、課税金額の算定にあたり、贈与資産等の時価又は譲渡資産等の譲渡対価と時価との差額を損金不算入とすることは定められているものの、その時価自体の算定方法について明確な規定はありません。

もともと寄附金の損金不算入制度は昭和17年から始まり、昭和40年の法人税全文改正で現行の制度となっていますが、当時は“国内”関連者との取引において、費用の負担・費用の付け替えを通じた租税回避を防ぐことが目的であったといわれています。

そのため、基本的にはその費用負担の支出額や贈与資産の購入金額、簿価等を基準に課税金額を算定することが想定されており、譲渡資産の「時価」自体を算定することは厳密に求められていなかったのかもしれません。

たしかに、国内取引であれば取引価格のズレが生じていたとしても、その事実がきちんと申告されてさえいれば、仮に各法人が負担する税額それぞれにゆがみがあったとしても、基本的に取引当事者の合計では、所得の総額に対応する税額を課すことができます。そのため、悪質な費用の付け替えによる租税回避を防ぐことができれば、課税の公平性は概ね担保できるといえます。

一方、取引相手が海外にある場合、取引価格のズレにより海外法人へ所得が移転してしまうと、日本国では税を課すことができません。

そのため、海外寄附金については、単純な費用の付け替えの予防だけでは不十分であり、国家の税収確保に当たっては、棚卸資産や無形資産(ロイヤルティ)取引などについて、リーズナブルな取引価格の設定を求めていく必要があります。これは取引相手国にとっても同様です。

このように、国をまたぐ取引については、その取引価格の算定方法によって税収が大きく左右されることとなるため、移転価格税制では一般的に一定の国際的なコンセンサスのもと、「独立企業原則」に基づいて算定すべきことを定められています。なお、日本では最もグローバルなコンセンサスであると言えるOECD(ないしG20など)におけるコンセンサスに基づいて、移転価格税制が設計されています。