移転価格解説

寄附金課税制度とは?

移転価格税制の文脈でいう「寄附金課税制度」は、資産や役務を無償で海外子会社に提供した場合などに、本来であれば本社はその対価を受け取るべきでっあったものとして、対価相当の収益を認識させて課税する制度です。

一般に「寄附金」とは、財産等を贈与することをいい、当事者の一方(贈与者)が無償で一定の財産を相手方(受贈者)に与える意思を表示して相手方がこれを受諾することにより成立する契約といわれています(民法第549条)。税務上の寄附金の考え方も基本的には同じはありますが、税務上の寄附金は、金銭・資産等の無償贈与のほかに、役務提供の無償供与、更には、低廉譲渡、高価買入れ、債権放棄、債務免除等も含まれることから、一般的にイメージされる寄附金よりは広くとらえられています。

法人税は、各企業が事業活動を行った結果獲得した利益・所得に対して公平に課されるべきで、もし事業活動と関係の無い支出を費用として認めてしまえば、租税回避行為を許容してしまうこととなります。そのため、海外子会社などに経済合理性の無い支出や利益の供与を供与した場合には、当該支出は損金として認められず、また供与された利益に相当する額が益金に算入されることとされています。

なお、法人税法(法法)第37条は以下のように定めており、国内取引に係る寄附金について所得規模又は資本金に応じて一定の寄附金の額については損金算入を認めていますが、平成22年度の税制改正から、100%の持分を有する完全支配関係のある内国法人に対して支出した寄附金については、全額損金不算入とするとともに、当該寄附金の贈与を受けた法人ではその受増益は全額益金不算入となっています。また、国外関連者に対する寄附金についても、全額損金不算入となっています。

法法第37

内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

2  内国法人が各事業年度において当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る。)がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額(第二十五条の二(受贈益の益金不算入)又は第八十一条の三第一項(第二十五条の二に係る部分に限る。)(個別益金額又は個別損金額の益金又は損金算入)の規定を適用しないとした場合に当該他の内国法人の各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額の計算上益金の額に算入される第二十五条の二第二項に規定する受贈益の額に対応するものに限る。)は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

寄附金規定の概要

そもそも寄附金とは何かについては、法法第37条第7項及び8項で定められています。以下ではこの2項のポイントを見ていきます。

法法第377

前各項に規定する寄附金の額は、附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。

法法第37条8項

内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

※下線は筆者による

① 名目は問わない

「寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず」と規定されている通り、損金不算入となる対象は、どのような名義・名目で支出されたものかどうかを問いません。そのため、損益計算書上どのような費目となっているかは関係なく、寄附とみなされる取引があれば損金不算入の対象となり得ます。

② 金銭や資産の支出に限定されない

寄附金の額は、「内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」と規定されている通り、金銭での支出、資産の支出に限らず、「経済的な利益」の贈与又は無償の供与も含まれることから、反対給付(対価性)を伴わない役務の提供や技術供与など、有形・無形を問わず経済的価値のある資産・役務について全ての取引が対象になると考えられます。

③経済合理性のある贈与又は無償の供与は除かれる

寄附金の額のうち、「(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)」と規定されている通り、経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合でも、間接的に反対給付を伴うものであれば、経済合理性のある取引として損金算入が認められています。たとえば、メーカーが販売代理店に対して広告宣伝費を負担することや、見本品の贈与をすること、取引先の接待を行うことは、直接的な反対給付と伴わないものの、製品販売の増加により利益(間接的な反対給付)を得られることから、利益獲得を目的とした第三者間においても行われる行為であり、必要経費として認められています。

ただし、こうした名目による支出であったとしても、社会通念上異常な金額の供与や経済合理性を欠くような性質の支出については、これらの費用と「されるべきもの」の範囲から逸脱することとなり得ますので、際限無く広告宣伝費等の負担が寄附金の額から除外されるものではないものと考えられます。

また同様に、子会社等を整理・再建する場合の損失負担についても、寄附金の額から除外されています。再建支援を行うことが親会社にとっても利益につながることもありますので、このような場合、子会社への無利息貸付や債権放棄にも経済合理性が伴うことから、寄附金規定の対象から除外することとされています(法通9-4-1、9-4-2)。ただし、過去の判例等を考慮すると、子会社再建のための費用負担が寄附金から除外されることは容易には認められないため留意が必要です。

④寄附金の額

寄附金の額は、「当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。」と規定されている通り、その贈与の時における価額すなわち贈与資産の時価が基準となります。資産を贈与した場合であれば、その時価、役務提供や技術供与などを無償で行った場合には、その経済的な利益の額が寄附金の額となります。

⑤低額譲渡の場合も課税対象

寄附金の損金不算入では、金銭や資産の無償の贈与だけではなく、低額で譲渡した場合においても、その差額を寄附金の額としています。

ここで基準となる価額は、「その譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額」すなわち時価となっており、時価と譲渡価格との差を寄附金の額としています。

海外寄附金課税について

海外子会社等の国外関連者への寄附金の損金不算入については、租税特別措置法において以下のように定められています。国内での寄附金のように一定金額の損金算入は認められておらず、全額が損金不算入とされています。そのため国外関連取引について移転価格課税を受けた場合と寄附金課税の場合では、基本的に課税金額は変わりません。海外グループ会社との取引に係る対価設定について課税を受ければ、同じ所得に2度課税を受けるいわゆる二重課税状態となってしまいます。ただし、寄附金課税を受けた場合は相互協議のような移転価格課税を受けた場合に救済措置となる対応が取れないなどの違いがあるため注意が必要です。

措法第66条の4第3項

 法人が各事業年度において支出した寄附金の額(法人税法第三十七条第七項 に規定する寄附金の額をいう。以下この項及び次項において同じ。)のうち当該法人に係る国外関連者に対するもの(中略)は、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。(後略)

また、事務運営指針 第3章(調査)においては、以下のように記載されています。

(国外関連者に対する寄附金)

3-20 調査において、次に掲げるような事実が認められた場合には、措置法第66条の4第3項の規定の適用があることに留意する。

イ 法人が国外関連者に対して資産の販売、金銭の貸付け、役務の提供その他の取引(以下「資産の販売等」という。)を行い、かつ、当該資産の販売等に係る収益の計上を行っていない場合において、当該資産の販売等が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に該当するとき

ロ 法人が国外関連者から資産の販売等に係る対価の支払を受ける場合において、当該法人が当該国外関連者から支払を受けるべき金額のうち当該国外関連者に実質的に資産の贈与又は経済的な利益の無償の供与をしたと認められる金額があるとき

ハ 法人が国外関連者に資産の販売等に係る対価の支払を行う場合において、当該法人が当該国外関連者に支払う金額のうち当該国外関連者に金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をしたと認められる金額があるとき

(注) 法人が国外関連者に対して財政上の支援等を行う目的で国外関連取引に係る取引価格の設定、変更等を行っている場合において、当該支援等に基本通達9-4-2(弊所注:子会社等を再建する場合の無利息貸付け等))の相当な理由があるときには、措置法第66条の4第3項の規定の適用がないことに留意する。